10話 天界回帰10
「――…………ま。…………様っ」
ここは、どこだ……?
天界で光に吸い込まれて以来、俺は薄れる意識の中で未知の空間を彷徨っていた気がする。
それは数秒か、数分か、それとも数日か……。時間の感覚すら、薄れていた気がする。
「――……ス様。ロース様っ」
微かに聞こえてくる、俺を呼ぶ幼なげな声。
俺は誘発されるまま、薄っすらと目を開いていく。
「…………何も、見えない」
ここがどこかは視認できない。そしてなぜか、体の自由も利かない。
どこか暗くて、狭い場所。ヒンヤリと冷たく、窮屈な空間。
いったいここは、どこなんだ……?
「ロース様っ、ロース様っ!
………………どうしましょうレア姉! ロース様が起きません!」
この声は、デュヴェルコードか?
えらく久しぶりに感じる。
「そこにいるのは、デュヴェルコードか?」
俺は寝起きまがいな気だるい声で、デュヴェルコードの名を呼んでみる。
「ロース様っ! 良かったです、お返事がありました!」
「それより、ここはどこだ……」
なんだか自分の声が、こもって聞こえる。どこか暗く狭いところに、閉じ込められているのか?
しかも、この体勢って……。
「今、うつ伏せか? 色々どういう事だ」
俺は謎の窮屈なスペースから脱出を図り、両膝を折り畳みながら腰を上へと浮かせてみた。その途端、腰に何やら板状の物が接触した。
これは何かの蓋だろうか?
俺は恐る恐る、上半身を起こしてみた。
すると、そこには……。
「おかえりなさいロース様! ご無事で何よりです!」
見慣れた玉座の間で、見慣れた3名の魔族が俺を囲っていた。
「お、お前たち……」
「無事にお戻りになったようですわね、ロース様」
「フハハッ! まったく、ご復活おめでとうでありますな!」
「私はいったい……。たった今、復活を遂げたのか?」
俺は冴え切らない思考の中、皆の顔を順に見回しながら問いかける。
「はいっ、おっしゃる通りです。このわたくしが、蘇生魔法でロース様を復活させてご覧に入れました。エッヘン!」
「えっ……! デュヴェルコードよ、お前が? この私を!?」
サラリと飛び出したデュヴェルコードの報告に、俺はギョッと目を見開いた。
「そんな驚かれなくても。かなりの魔力を消費しますが、魔王城で唯一の力は伊達ではありません!
わたくしは優秀な優れ者ですから!」
堂々と腰に手を当てる、得意げなデュヴェルコード。
優秀な優れ者って……。なんだその、『冷たい冷水』みたいな気持ち悪い表現……!
だが、そんな事より。
「いや驚くだろ! お前の蘇生魔法は何度も目にしてきたが、私は魔王だぞ!?
そんなホイホイと蘇生できるのか!? 魔王を!」
「できますよ。魔法は嘘をつきませんから」
……………………この側近、優秀すぎないか?
性格に難はあるが、魔王レベルの魔族を蘇生できるって、もはやチートだろ。
俺の事をチート持ちと言ってきたくせに、お前の方が遥かにチート持ちじゃないか、ロリエルフ……!
「す、凄いなデュヴェルコード。凄いとしか言葉が出ないぞ……」
「当然です! ロース様にお仕えする側近として、魔法だけは誰にも負けるわけにはいきませんから!」
デュヴェルコードは両目のオッドアイをキラリと光らせ、両手で可愛らしいガッツポーズを取った。
まさか調子に乗って、ここで魔法を放ったりしないよな? 雷撃の二の舞は御免だぞ……!
「なんだか力量的に見て……。私よりもお前の方が、魔王に相応しくないか?」
「何をパカな事をおっしゃいます! 私には不可能です!」
「そんな事はないと思うが。これだけ魔法の才に恵まれているのだぞ?」
「それでも、ロース様にしか魔王は務まりません! これは絶対なのです!」
「な、なぜそこまで私を強く推すのだ……?」
譲る気配のない強気なデュヴェルコードに、俺は静かに問いかけた。
するとデュヴェルコードは、指で頭をポリポリと掻き始め。
「――なぜって、血筋です」
俺のトーンに合わせ、静かに答えた。
「………………血筋って……」
生まれつきレールを敷かれた、ただのボンボンじゃないか……!
余計に魔王の座を譲りたくなったんだが。
俺はひとり惨めさを痛感し、不思議そうに見つめてくるデュヴェルコードから、静かに視線を切った。