10話 天界回帰9
「なんだ、この光は……」
俺に向け、上空から差し込んできた一筋の光。
「タイムリミット。お目覚めの時間ですね」
「お目覚め? それって、あの異世界に復活する時が来たって事ですか!?」
「それ以外にないでしょ」
少しずつ光の幅は広がっていき、スポットライトのように俺の体を包み込んでいく。
「さてっ。『復活トクテン』も無事に授けましたし、私の役目はここまでです」
「魔法習得は有り難く思っています。ですが今思えば、あんな授け方はどうかと……。女神様の恩恵にしては、品がないと言うか」
「私的には、素晴らしい演出だと思ったのですが。
新しい命は、卵から産まれるでしょ? あなたにとって不可欠となる魔法も、卵から産まれたらより親近感を持ってもらえると思ったのです。
これは私と言う美しく優しい女神が贈る、せめてものサービスです」
自身の優しさをアピールするように、ニッコリと微笑んでくるエリシア。
サービス精神はいいが、その卵を俺の体に投げつけるなよ。微塵も親近感なんて湧かなかったぞ……!
「そもそも俺って、卵から産まれてないんですが……」
「細かい事はノータッチ! それより、体を楽にしてお待ちください。
じきに浮かび始めると思うので」
「浮かび始めるって、まさかこの光に沿って?」
「だから、それ以外にないでしょ。流れを読んでください。
その光からはみ出ないように、体を楽に大人しく!」
エリシアは胸の前で両腕を組み、落ち着きなくつま先を床にコツコツと当てる。
「はみ出ないようにって、この狭い光の中から!? 肩幅くらいしか、照らされていないんですが……!」
俺はエリシアからの忠告を受け、光から体がはみ出ないよう、直ちに気をつけの姿勢を取った。
なんだかまた、見窄らしい門出の展開になる予感が……!
「あの、エリシアさん。どう見てもこの光って、俺の体には狭くないですか?
酷く窮屈だし、これで浮き上がったらまるで……」
不安を漏らしながら、体が光からはみ出ないよう両肩を交互に確認していた。
そんな矢先に……。
俺の体は、光の発生源へ吸い込まれるように、ゆっくりと浮かび始めた。
「ふふっ。まるでストローで吸われる、タピオカみたいですね。映え狙いですか?」
「そんな情けない例えは止めてください! 俺も思ったけど、敢えて言わなかったのに! 魔王が映えてたまるかっ!」
怒声を放ちながら、俺の体は狭い光の中をぐんぐんと浮かび上がっていく。
「最後に忠告しておきます、魔王ロースさん」
「こんないかにも大詰めな時に、いったい今度はなんです?」
「ふふっ。いいえ、名前が違いましたね。失礼しました、『ギブスまみれのワキガ外交官』さん」
浮かび上がっていく俺に向け、満面の笑みを向けてきたエリシア。
その途端、俺は毎度『オブテイン・キー』に表示される、あの悪意あるユーザー名を思い出した。
「あのふざけたネーミングは、やっぱりあなたの仕業か!
どこまで死者をおちょくれば気が済むんですか!」
「ふふっ。異世界でも、脇の臭いにはご注意を。
よく言うでしょ? 『ヤバい、脇から』って」
「いやっ…………それを言うなら、『病は気から』でしょ!」
「『病、脇から』?」
「病は気からっ! 変なところで区切るな!」
俺は気をつけ姿勢のまま怒声を放ち続け、手を振るエリシアを見送り。
「結局また、こんな天界展開で終わるのかよ……!」
――光の差す上空へと、吸い込まれていった。