10話 天界回帰8
「――あなたに、『エクスプロージョン・ハンマー』を授けます」
俺は新たに魔法を習得した。
それも、とびきり強そうな名前の魔法を。
「エクスプロージョン……ハンマー……?」
「はい。世界にふたつとない、強力な攻撃魔法です。確かに授けました」
俺の知らない魔法だ。
異世界へ転生して間もない頃、『オブテイン・キー』にある各項目には、ひと通り目を通していたが……。
そんな名前の魔法は、なかった気がする。
「魔法の習得自体は、体で感じ取ったので問題はないですが……。いったい、どんな魔法なんです?」
「名前の通りです。あなたのご自慢であるガチムチな腕に爆裂魔法を宿し、相手をブン殴る事ができる魔法です」
「なるほど……! 確かに今の俺には、ピッタリかもしれません。岩をも砕く俺のパンチに、強力な爆裂魔法が加われば……」
「食らった相手は、ひと溜まりもないでしょうね。
強力なパンチと爆裂魔法を、ゼロ距離で同時に食らうのですから」
腰に両手を当て、淡々と説明していくエリシア。
「それってつまり……最強パンチじゃないですか! これでやっと、俺にもまともな切り札が備わりました!
でも本当に頂いていいんですか? 『オブテイン・キー』にも載っていないような、レア級の魔法ですよね?」
「勿論です。あなたはソリの合わない死者ですが、女神として限定魔法の選定を妥協したりはしません。
お伝えした通り、これは無二の魔法です。唯一授けるとすれば、今のあなたがベストだと判断したまでです」
エリシアはコクコクと頷きながら、優しい笑顔を向けてくる。
「……………………あ、ありがとうございます」
俺は少し考えた。この邪女神の言葉を、信じ切っていいのだろうか……?
何かとんでもない、オチや汚点がある気がする。
「念のために聞いておきますが、これって本当の本当に優れた魔法なんですよね?
また変なマイナス点とかあるんじゃ……」
「ありますよ」
当たり前のように、即答するエリシア。
「そんなサラッと!?」
「あるに決まっているでしょ。利点があるから、欠点もある。それが全てにおいての、バランスと言うものです。
だってこの世に万能なんて、存在する訳がないのですから。私を除いては」
……………………これは自虐ネタだろうか?
あなたほど欠点だらけな存在を、俺は他に知りませんけど……!
「そうですね……万能な女神様。先ほど『女神にだってミスはある』と、聞いたばかりな気もしますが……。
それで、この魔法のマイナス点とは?」
「あなたの使い方次第で欠点は左右されますが、成功率の低さです」
「成功率ですか?」
「考えたら分かる事ですが、パンチですよ? 接近戦でしか効力を発揮できない、至近距離専用の魔法です。
外すような事があれば、ただひとりで派手に爆発している、恥ずかしくて可哀想な魔王になるだけでしょうね。
戦闘中に、ひとりお祭り騒ぎな魔王になりたくなければ、確実に当てる事ですね」
「それは……言えてますね。想像したらまるで、火事場のバカみたいだ……!
コジルドと模擬戦を交えた時ですら、全然拳を当てられなかったですし」
俺はその時の様子を思い出しながら、少し俯き始める。
するとエリシアは雰囲気を変えるように、両手をパンパンッと叩いた。
「はいはいっ、そんなに落ち込まないで! せっかく強力な魔法を習得したのですから、後で試してみるといいですよ。
異世界に戻ったら、まずは勇者の住む街にでも繰り出して、挨拶代わりに一撃ぶっ放せばいいわ」
「俺は悪魔か! 挨拶代わりに一撃ぶっ放すような極悪行為を、するわけないでしょ」
「だってあなた、魔王じゃない。やったところで、誰も不思議に思わない役所のはずよ。
それに、やられっ放しでいいの? 勇者ンーディオはあなたに向けて、挨拶代わりに一撃ぶっ放していたじゃない」
そう言えば、いたな。俺より遥かに魔族に向いている、チンピラ勇者が。
挨拶代わりの一撃も、その技名も、酷いものだったな……!
「一撃ぶっ放すにしても、その異世界へはどうやって帰るんですか?
まさかまた、魔法陣に引き摺り込まれて沈んでいくんじゃ……」
「んー、そろそろね。すぐに分かります」
意味深に唸るなり、上空へと視線を向けたエリシア。
そんな矢先に、上空から俺に向け一筋の光が差し込んできた。