10話 天界回帰7
「――今のあなたにピッタリな、素晴らしいトクテンを授けましょう!」
穏やかな笑顔を向け、俺に片手を差し出してきたエリシア。
「トクテンって、またポイントカードに点数でも付与するんですか?」
「いいえ、ポイントはあくまで転生トクテンなので。今回はあなたにとって必要と思われる、無二の魔法を授けます。いわゆる『復活トクテン』と称されるトクテンです」
「あぁ…………それってつまり、復活は確定事項って事ですか。さっきも聞きましたが、俺はあの魔王城に戻るしかないと」
「はい。こればっかりは、私にも捻じ曲げられない事柄ですので、諦めてください」
「なんでですか? 女神なのに」
「じきに分かります。私からは特に説明もしないので、ご自身で勝手に理解してください」
依然として片手を差し出したまま、笑顔を絶やさず答えるエリシア。
勿体ぶらずに、さっさと教えて欲しいのだが。ここでは言えないような裏でもあるのか……?
「こ、今回もらえる『復活トクテン』は、その……色々と大丈夫ですか?」
「と、言いますと?」
「念のために確認しておきたくて。『転生トクテン』で付与してもらったポイントは、役立たずだったと言いますか。懸念だらけと言いますか」
「なんですって?」
俺が不安を漏らすなり、エリシアはムッと表情を変えた。
「正直言って、あのポイントカードは使い物になっていないです。
転生直後からポイントの残りが少な過ぎて、何もできませんし。欲しいスキルや魔法も、高ポイントで習得できないですし」
「初回に1000ポイントも授けたのに!?
あなたはあれですか? お小遣いを貰うなり、後先も考えずギャンブルに注ぎ込む子供と同じですか?」
「そんな使い方はしていま……の前に、例えが酷いですね。そもそも子供はギャンブルできないでしょ」
「働きもせずに親のお金でギャンブルしている者を、大人と呼べますか?
大人になれない子供で、例えたつもりなのですが」
………………突然なんの話だ。急にそんな精神論を述べられても困るんだが。
確かにそれは精神的に子供かもしれないが、例えるならせめて『脛かじり』って言えよ。唐突に振られて、理解できるわけないだろ……!
「そういう事だから、あなたの管理不足をトクテンのせいにしないでください」
「いやいや、転生直前にポイント根こそいでおきながら、管理不足はないでしょ!
受け取りたてのポイントを、チュートリアルで9割も消費させておいて! 女神の皮を被ったヤクザですか!」
俺が言い返すなり、エリシアは差し出し続けていた片手を静かに引っ込めた。冷め切った空っぽの瞳で俺を見ながら、引っ込めた片手を背後へと回し。
「あなたには『復活トクテン』より、腐った生卵をプレゼントする方が良いみたいですね」
エリシアは背後からゆっくりと、生卵を取り出して見せた。
「今……どこから取り出しました?」
この邪女神は、産卵できるのか……?
それも、腐った卵を。
「女神エリシアの名の下に、あなたに選ぶ権利を与えます。
選びなさい。『復活トクテン』か、それとも腐った生たま……」
「すいませんでした、『復活トクテン』でっ……!」
俺はエリシアが選択肢を言い終わる前に、ペコリと頭を下げ即答した。
「いいでしょう。その謝罪に免じて、あなたの愚かな暴言を赦します」
エリシアは機嫌を直したように、ニッコリと微笑み……。
――ペシャッ。
あろう事か、俺に生卵をぶつけてきた。
結局ぶつけるのかよ。先ほどの選ぶ権利は、何を選ばせてくれたんだ?
まるで情報を聞き出した挙句に、人質を殺めるタイプの極悪人みたいだ……!
しかし……。
「えっ……? なんだこの黄身、気味が悪いんだが……!」
俺の体に張り付いた卵の黄身が、突然強い光を発し始める。
次第に光度は増していき、眩い光が俺の体を包み込んだ。
「な、何か漲ってくる……!」
――光の中で感じ始める、新たな魔法の可能性。
目に見える変化はないが、感覚で分かる。俺の体に、未知の力が備わっていく。
そして試さなくても分かる。俺はこの瞬間、新しい魔法を習得した。
「――流崎亮さん……いいえ、魔王ロースさん。
今のあなたにピッタリな、そしてあなたにしか扱えない、世界で無二の魔法…………。
あなたに、『エクスプロージョン・ハンマー』を授けます」