10話 天界回帰5
「俺の前に来た死者さんが、どうかしたんですか?」
怒声を放ってきた理由を探るべく、俺はエリシアに尋ねてみた。
「あなたの前に来た死者の態度に、イラッとしただけです」
「そんなに酷かったんですか? 良ければ話くらいなら聞きますが。聞くだけですが」
俺はそっぽを向き続けるエリシアを落ち着かせるため、俺の前に来た死者の話をするよう持ちかけてみた。
落ち着いてもらわないと、また腐った生卵を投げられそうだし、俺の案内すら始まらない気がするし……!
「あなたに話しても、仕方のない事よ」
「ど、どうしてですか?」
「だってあなた、人間辞めた魔王でしょ? 魔の王でしょ?
そっちサイドの生き物に話したところでって事よ。今は死んでいるから、生き物じゃないけど」
悪かったな、魔王で。
て言うか、人間辞めて魔王になったのは、アンタのせいだろ……!
「先ほどの死者も、あなたと同じく日本で死を迎えた男だったわ」
不機嫌そうな表情はそのままに、エリシアは顔を俺へと向け直してゆっくりと語り始める。
散々文句を言った割に、結局聞いてもらいたいのか……。
「その彼は整った顔立ちで、女神の私ですらちょっと良いかもと思えたわ。だからその彼に、天界の食事でも一緒にどうかと誘ったの。
すると彼は『美しい女神様ではありますが、死者相手に逆ナンはお控えを……。どうか僕の持つ、清らかな女神のイメージを崩さないで』なんて言って拒否してきたわ。
いやいや。私、女神ですけど。女神の誘いを断ったりする!? 普通あり得る!? なんたる女神への無礼かしら!」
その時の様子を明確に覚えているように、スラスラと語っていくエリシア。
女神への無礼って、その男はかなりまともな事を言っている気がする。単なる女神の下心じゃないか……!
女神が天界で、死者を口説くなよ……!
「女神への冒涜を働いた彼にはもれなく、魔王城で養鶏されているサーロインバードのヒナに転生させてやったわ!
数ヶ月もしたら食べ頃に育って、あなたの食卓に並ぶかもね」
「おい、なんて事しているんですか……!」
アゴに片手を添えて怪しい笑みを浮かべるエリシアに、俺は冷ややかな視線を送った。
なんて身勝手な嫌がらせ転生だ。その男が気の毒すぎるんだが……。
ちょっと美味しそうな名前の鳥だと思ったのに、そんな事を聞いたら口に運べないだろ……!
――やはり女神エリシアは、邪女神だ。
それより今、気になる事を口にしていた。
「あの、エリシアさん? 今の口振りだと、俺は今後もあの魔王城で暮らすという事ですか?
俺の食卓に並ぶかもって……」
「その件に関しては、じきに分かるでしょう」
「じきに……? 引き延ばす感じが怪しいですが、大丈夫かな。あと、他にも聞きたい事が」
「無理です。前回に引き続き、今回も質問は1回まで。その1回は、たった今使い終わりましたけど」
「いやいや、今のはノーカンでしょ! て言うか、答えてくれてないし!」
「なら何が聞きたいのよ。流崎亮の死後に浮上した、デマや噂の数々とかですか?」
「それっ…………それも凄く気になりますが、今は別の真相を!
俺はなんで魔王に転生したんですか!? 勇者じゃなかったんですか!」
俺が1番知りたかった事を質問するなり、エリシアはあからさまにギクリッと肩をすくめた。
そして俺に向かい、ゆっくりと歩みを寄せ。
「――ごめん、いろいろとミスった……」
エリシアは俺の耳元で、穏やかに囁いた。




