10話 天界回帰2
俺たちは勇者パーティとの戦闘を終え、他愛のない話にふけていた。
そんな矢先に。
「コジルドさん、震えていますね。玉座の間が肌寒いからでしょうか?」
「いや、どう考えても違うだろ。なんだかオチが読めるな……」
雑談の中、ひとり姿の見えなかったコジルドは、隅の方で小さく体育座りをして震えていた。
「勇者パーティの撃退に成功した直後だと言うのに、ひとりにしては気の毒だ。少し話しかけてくる」
「あんなコジったボッチなんて、放っておけばよろしいのに。
構ってほしくて震えているだけに見えますわ」
「そうもいかない。今もこうして私が生きているのは、紛れもなくコジルドのお陰だからな」
俺はレアコードの反対を押し切り、コジルドの方へと歩みを寄せた。
「コジルドよ、先ほどは助かった」
「ディストピア……! インポッシブル……!」
俺は側まで歩み寄るなり声をかけてみたが、コジルドは依然として震えながらブツブツと独り言を呟く。
「どうしたのだコジルドよ、ガタガタと震えて。そんなに私が魔法を使った事に驚いたのか?
まぁ……無理もないか。他の者もあれだけ驚いたのだ、お前が驚くのも当然か」
「ナイトメア……! ロース様が、あんな愚行をなさるとは。まさに悪夢級の惨劇……!」
「驚いた連中の中で、お前が1番大袈裟だな。あの程度で惨劇だと?」
たかが低級魔法を使っただけで、こんなに震えるか普通……。オーバーすぎるだろ。
「あの程度ですと……! 我の見せ場を横取りされておきながら、あの程度ですと!?」
「えっ……そっち!?」
全然違っていた。なんだか、猛烈に恥ずかしくなってきたんだが……!
これではただの、調子に乗った勘違い魔王じゃないか。
「我を切り札だの隠し球だのと煽てておきながら、美味しいとこだけ頂きまーす……ですと……」
「おい言い方。あの時は仕方なく……」
「所詮、普段からチヤホヤされているロース様には、滅多に輝けないひとりボッチの気持ちなど理解できないという事ですか。
………………パリピ……怖い……マジくわばら……!」
俺の言い分に聞く耳も持たず、震えながら嘆くコジルド。
パリピって、魔王をウェイ系みたく言うなよ。
まさか異世界に来てまで、『パリピ』なんて言葉を聞くとは思わなかったが……。
「その、色々とすまなかったな。後でお前の破れたマントを新調してやるから、気を取り直してくれ」
「………………約束ですぞ」
コジルドは俺にチラリと視線を向けてくるなり、その場にスッと立ち上がった。
やはりチョロいな、この構ってちゃんは……!
俺はコジルドを引き連れ、デュヴェルコードたちの元へと戻っていった。
「おかえりなさいませロース様。今の間に、デュヴェルから事情は聞きましたわ」
「そうかレアコード。なら説明は不要だと思うが、コジルドも健闘してくれたぞ」
「そのようですわね。お疲れ、引き立て役」
俺たちが戻るなり、コジルドに意味深な笑顔を向けるレアコード。
「おいレアコード! せっかくコジルドを慰めてきたのに、悪意ある言い方はよせ!
今のコジルドには、絶妙すぎるだろ!」
「フハハッ! 心配なされるなロース様。レアコードの毒舌など、今に始まった事ではないゆえ、聞き流すのがセオリー。
トゲを持つ花は美しい、と言うやつですな」
それはちょっと違う気がするが……!
「そ、そうか……お前がそれでいいのなら、良しとしよう。
それより、お前たちに少し聞きたい事がある」
俺は話を切り替えるため声のトーンを下げ、この場にいる3人の顔を見回した。
すると俺の意を察してくれたのか、皆各々に引き締まった表情を見せ始める。
「皆、疲労していると思うがすまない。戦闘を終えて間もないが、聞きたい事がある」
「お気になさらないでください。わたくしたちの知る限りでしたら、いくらでもお答えします」
「助かるぞ、デュヴェルコード。
聞きたい事とは、先ほど勇者ンーディオが去り際に告発した、姫の事だ。囚われた姫を取り戻すと口にしていたが、いったい……」
俺が疑問を言い終わろうとした、その時……!
「――ロース様ぁー! ご無事で何よりですーーっ!!」
玉座の間いっぱいに響き渡った叫声に、俺の声は掻き消された。
この声、なんだか聞き覚えが……!