10話 天界回帰1
――俺たち魔王軍は、今回も勇者パーティの撃退に成功した。
「ロース様、やりましたね! 最後の静電気パンチはお見事でした!」
好戦果に伴わない、不服の一撃と共に……。
「撃退できたのは幸運だったが……その静電気パンチは止めないか? 結果的にモヤモヤが芽生えてくるんだが」
「それでも価値ある一撃です。敵さんの表情をご覧になりましたか? チンピラ勇者の顔なんて、その全てを物語っていましたよ!
やはりフィナーレを飾るのは、魔王の一撃でないと!」
そんなフィナーレを飾った魔王の一撃は、部下の美味しいところを横取りした、泥棒行為と呼べる一撃だったけどな。
どの点においても、魔王が放つに相応しくない一撃だった……!
「まさかダメ元でやってみたお前の策が、あんな結果を齎すとはな。
本当にこの結果を想定していたのか?」
「いいえ。正直に申し上げますと、わたくし的には五分五分でした」
「はぇっ!?」
「半分は失敗するだろうなと、もう半分はおおよそ成功するだろうなと直感しました。
チンピラ勇者の性格を考えると、サラッと流されるかなぁ……なんて事も思いながら。
それでも半分成功と言うハーフアンドハーフな高確率に、賭けてみたくなった乙女心です!」
「おい……! きっと大丈夫とか言っていたくせに、五分五分の可能性に賭けたのか!?
思いっきり鉄砲玉扱いじゃないか」
それに『もう半分はおおよそ成功』って、それでは成功率が五分五分とは言えないだろ。成功率3割程度にしか聞こえないぞ……!
なんてアバウトで、心許ないハーフアンドハーフ理論だ。
「なかなか良い案だと思うわ、デュヴェル。確かにロース様が魔法なんてお使いになったら、誰だって驚くかしら。
あたくしもその現場を見たかったわ」
「ありがとうございます、レア姉。もう閃いた時、エッヘンって感じでしたよ!
なんなら、今からロース様に魔法を見せてもらってはいかがです?」
デュヴェルコードが提案するなり、キョトンとした表情で固まったレアコード。
「………………またまた、デュヴェルったら。あたくしまで騙す必要はないのよ。
どうせデュヴェルがロース様に低級魔法を纏わせて遠隔操作していたとか、そんなオチでしょ?」
レアコードの反応に、デュヴェルコードはニヤリと怪しい笑みを浮かべ。
そして……。
「ロース様、派手なのを1発お見せください」
ニヤついたまま、デュヴェルコードはツンツンと肘で俺を突いてきた。
お前は俺のマスターか。側近が立場を翻すな……!
「デュヴェルコードよ、私を軽くおもちゃにしていないか?
見世物にされるのは、ごめんなのだが……まあ良い。『スパーク』」
俺は言われるがまま、右手に放電を発生させた。
「どうだ、これで満足か?」
「………………お、驚きましたわ。本当に現実かしら」
レアコードは目を疑った様子で、マジマジと俺の右手を凝視してきた。
だが驚きと興味を示したものの、レアコードはすぐさま凝視を止め……。
「はぁ……もう結構ですわ、分かりましたので」
どこか残念そうなため息をつき、レアコードは呆れた表情を浮かばせた。
「驚愕していた他の者とは違い、さすがに冷静だなレアコード。
頭のキレるお前なら、如何にこれが大騒ぎするほどの事ではない茶番かどうか、見極めてくれると信じていたぞ。まったく、私も皆のリアクションにため息が出るよ」
「ロース様はあたくしのため息を、少々履き違えておられますわね」
「それは……どういう事だ?」
「あたくしはただ、ロース様のような低知能な魔王に習得されてしまった、低級魔法を哀れに思っていただけです。
可哀想に……低級魔法とは言え、地に落ちたものね」
理由を明かすなり、レアコードは放電を続ける俺の右手に、冷たい視線を向けた。
忘れていた……! コイツは冷静などではなく、ただ冷酷なだけだった。
バカにされるような大騒ぎより、こっちの方が遥かにダメージが大きいな……。
「レアコードよ、返す言葉もないぞ」
「フフッ、失礼しましたわ。魔法のお勉強を頑張られたのですね。少しは見直しましたわ」
慰めようとしているのか、涼しげな笑顔を向けてくるレアコード。
「その頑張られた成果を、真っ先にわたくしの体でお試しになりましたよね、ロース様!
わたくしの寝込みに、どさくさ紛れを装って、太ももとか触って!」
和み始めた雰囲気の中、余計な事ばかりを口走るデュヴェルコード。
あれは事故だっただろ……!
「………………最低ですわね。見損ないましたわ」
一瞬にして、レアコードの表情は冷め切った。
誤解を招くような言い方ばかりしやがって、このロリエルフ……!
今度新しい魔法を会得する事があれば、また1番に試し打ちをしてやるからな……!
「そ、そう言えば……コジルドはどうした?
退避を命じたきり、姿を見ていないな」
これ以上、不要な悪印象を持たれないよう、俺は話題を切り替えた。
「コジルドさんなら、あちらの隅で小さく丸まっていますよ」
デュヴェルコードは即答と同時に、玉座の間の隅を指差した。
俺はそれに釣られるように、差された方を見てみる。
「アイツ……」
するとコジルドは隅の方で体を震わせ、床に体育座りをしていた。
まさかまた同じ驚愕のクダリを、繰り返さないといけないのか……?