9話 反撃狼煙9
パーティを代表するように、帰還を宣言してきたンーディオ。
「お、お待ちくださいンーディオ様……!」
しかしパーティリーダーの意に反するように、シノがストップを申し出た。
「ンーディオ様、このまま逃げ帰るのですか!?
たかが魔王の『スパーク』を見ただけで、0が1になったのを見ただけで!」
「あぁっ? オメェには、この危険性が分かんねぇのか?
1が10になる可能性はあるが、オメェの言う通り0から1だぞ? 何もないところから、可能性が生まれた事に気がつかねぇのか。ヤツにとってのビッグバンって事によ!
魔王にとって絶対不可能だったはずの魔法を、ヤツは使ったんだ」
シノの説得に、ンーディオは尤もらしい表情で反論する。
それより俺は褒められているのか、バカにされているのか……。たかが下級魔法の『スパーク』で、大袈裟にビッグバンなどと騒がないでほしい。
新手の嫌がらせに思えてきた……!
「で、でもでもですよ! ここで逃げ帰って、『下級魔法を相手に、勇者パーティの股下が縮み上がった』、なんて世間に認識されたら……!
メンツを保つためにも、ここは引かず戦わねば!」
「オメェはオツムまで残念なのか? 魔王に魔法の可能性が生まれたんだ。『スパーク』はデモンストレーションで、上級魔法が控えていたらどうすんだ!
もしも魔王スケールの魔法なんてカマされてみろ、対策なしで凌げんのか!?」
「でも、でも……! 私ばっかりこんな目に遭わされたのに!
私ひとりこんな残念な顔になって、ノコノコと帰れないですよ!」
シノは自身の変形した顔を指で差しながら、ンーディオの肩を乱暴に揺さぶる。
残念なのは中身もだろ。むしろ中身がだろ……!
「顔の事なら大丈夫だろ」
「どこが大丈夫なのですか! 全然だいじょばないです!」
「だってイマシエルも同じ顔じゃねぇか、一緒に帰ってもらえよ」
「………………どこが大丈夫なのですか。全然だいじょばないです……」
反論を諦めたのか、ンーディオの肩から力なく手を離したシノ。
『だいじょばない』って、また変な言葉を出してきたな。
「おい、勇者サイド。いつまでグダグダと揉めているつもりだ」
敵を前にして言い合いを続ける勇者パーティに、俺は痺れを切らし問いかけた。
「取り込み中くらい黙ってろよ、野次馬が!」
「誰がっ……どこが野次馬だ! どう見ても、ただ待たされている当事者だろ!
言い合いなら、帰ってからやってくれ」
「粋がんなよ脳筋が! 言われなくても帰ってやるよ!」
「そうか、それは命拾いしたな。先ほどお前がシノに話していた予想の通り、私にはまだ上級魔法が控えていたからな」
俺は牽制をかけるように、口から出任せを吐いた。
本当は上級魔法なんて使えないが……。勝手に深読みして警戒してくれたので、せっかくだから更に警戒してもらおう。
上手く騙せれば、ありもしない魔法の対策に手を回してくれるかも知れないし……!
「えぇーーっ!! ロース様、上級魔法ってマジですか!?」
俺の隣で、誰よりも上手く騙されてくれたデュヴェルコード。
側近のくせして、真っ先にお前が振り回されるなよロリエルフ……!
先ほどまで、自慢げにドヤ顔していたのは誰だよ。
「ペラペラとネタバレしやがって、気持ちよくなってんじゃねぇぞ!
所詮はオレより弱いくせに、この雑魚が! 弱者が!」
「そんな事はありません!!」
ンーディオによる俺への罵倒に、突然デュヴェルコードが1歩前に出た。
「ロース様は、誰にも負けない優しさを持っておられます!
仲間を大切に想い、魔族を愛し、優しい笑顔を皆にくださる、素晴らしい魔王です!」
「そうね、デュヴェルの言う通りだわ」
デュヴェルコードに続き、レアコードも1歩前に出た。
「ロース様は、あたくしたちを導ける唯一の存在。そして慈愛に満ち、相応しく君臨される無二の御方かしら」
「お、お前たち……!」
俺は、自然と声が震えた。
フォローしてくれるのは嬉しいが、弱者の否定はしてくれないんだな……!
戦力に関しては、完全にノータッチだった。つまりコイツらの中で俺は、ただの優しい雑魚上司じゃないか……!
「ケッ! 虫酸が爆走する仲良しごっこだな。
取り巻き共からの信頼はアチィと見る。だがそれがテメェの強さなら、この先も到底オレには勝てねぇだろうな」
「なぜ私がお前に勝てないと言い切れる? 仲間の強さや頼もしさも、戦況を左右する重要なポイントだろ」
「なぜって……」
剣幕な様子で予知を述べるンーディオに、俺は質問を投げかける。
しかしその途端、ンーディオは足元に転がっていた床の破片らしき小石を、俺に向け蹴り飛ばしてきた。
これは……ンーディオの気まぐれな腹癒せか、それとも敢えてか。
いったいコイツは、何を思って小石なんか蹴りやがった……!
軽々しく蹴り飛ばされた小石は、緩やかな弾道を描き。
――ポコッ……。
俺の片足に、当たってしまった。
これは、非常にヤバい……!
「――なぜって、オレが魔王城を完全攻略しているからだ。当然、テメェの取り巻き共の事もな!」
小石の事など気にも留めない様子で、勝算を明かしたンーディオ。
その間に、小石の被弾により『プレンティ・オブ・ガッツ』が発動し、俺の体力は強制的に残りわずかとなった……。
どうしよう。ンーディオの言葉など、ひとつも頭に入ってこない。それどころではない。
まさかコイツ、言わないだけで俺の事も攻略していないよな……?
俺は体力の減る苦痛を表に出さないよう、必死に耐え凌いだ。
「おいハーレム共、帰るぞ。対策を立てて出直しだ」
ンーディオが号令を唱えた途端、パーティメンバーは一斉にンーディオの肩に手を添えた。
「いいか、魔王ロース。近いうちにまた狩りに来てやる。
ハハッ! 次回は肋でも洗って待ってるんだな!」
だから洗って待つのは首だろ。今回はリブロースとでも言いたいのか?
お肉で名前をイジるのは止めてほしい……!
「次こそテメェを滅ぼして、名誉を手に入れてやるよ!
そして…………囚われた姫は返してもらうからな」
「おい、今なんて……」
ンーディオの口から飛び出した思わぬ告発に、俺は咄嗟に聞き返そうとしたが。
「――『テレポート』」
ンーディオはパーティメンバーと共に、瞬間移動で姿を消してしまった……。
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