表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/304

9話 反撃狼煙9





 パーティを代表するように、帰還を宣言してきたンーディオ。


「お、お待ちくださいンーディオ様……!」


 しかしパーティリーダーの意に反するように、シノがストップを申し出た。


「ンーディオ様、このまま逃げ帰るのですか!?

 たかが魔王の『スパーク』を見ただけで、0が1になったのを見ただけで!」


「あぁっ? オメェには、この危険性が分かんねぇのか?

 1が10になる可能性はあるが、オメェの言う通り0から1だぞ? 何もないところから、可能性が生まれた事に気がつかねぇのか。ヤツにとってのビッグバンって事によ!

 魔王にとって絶対不可能だったはずの魔法を、ヤツは使ったんだ」


 シノの説得に、ンーディオはもっともらしい表情で反論する。

 それより俺は褒められているのか、バカにされているのか……。たかが下級魔法の『スパーク』で、大袈裟おおげさにビッグバンなどと騒がないでほしい。

 新手の嫌がらせに思えてきた……!


「で、でもでもですよ! ここで逃げ帰って、『下級魔法を相手に、勇者パーティの股下またしたが縮み上がった』、なんて世間に認識されたら……!

 メンツを保つためにも、ここは引かず戦わねば!」


「オメェはオツムまで残念なのか? 魔王に魔法の可能性が生まれたんだ。『スパーク』はデモンストレーションで、上級魔法がひかえていたらどうすんだ!

 もしも魔王スケールの魔法なんてカマされてみろ、対策なしでしのげんのか!?」


「でも、でも……! 私ばっかりこんな目にわされたのに!

 私ひとりこんな残念な顔になって、ノコノコと帰れないですよ!」


 シノは自身の変形した顔を指で差しながら、ンーディオの肩を乱暴に揺さぶる。

 残念なのは()()()だろ。むしろ中身がだろ……!


「顔の事なら大丈夫だろ」


「どこが大丈夫なのですか! 全然()()()()()()()です!」


「だってイマシエルも同じ顔じゃねぇか、一緒に帰ってもらえよ」


「………………どこが大丈夫なのですか。全然だいじょばないです……」


 反論を諦めたのか、ンーディオの肩から力なく手を離したシノ。

 『だいじょばない』って、また変な言葉を出してきたな。



「おい、勇者サイド。いつまでグダグダと揉めているつもりだ」


 敵を前にして言い合いを続ける勇者パーティに、俺はしびれを切らし問いかけた。


「取り込み中くらい黙ってろよ、野次馬が!」


「誰がっ……どこが野次馬だ! どう見ても、ただ待たされている当事者だろ!

 言い合いなら、帰ってからやってくれ」


いきがんなよ脳筋が! 言われなくても帰ってやるよ!」


「そうか、それは命拾いしたな。先ほどお前がシノに話していた予想の通り、私にはまだ上級魔法がひかえていたからな」


 俺は牽制けんせいをかけるように、口から出任でまかせを吐いた。

 本当は上級魔法なんて使えないが……。勝手に深読みして警戒してくれたので、せっかくだから更に警戒してもらおう。

 上手くだませれば、ありもしない魔法の対策に手を回してくれるかも知れないし……!


「えぇーーっ!! ロース様、上級魔法ってマジですか!?」


 俺の隣で、誰よりも上手く騙されてくれたデュヴェルコード。

 側近のくせして、真っ先にお前が振り回されるなよロリエルフ……!

 先ほどまで、自慢げにドヤ顔していたのは誰だよ。



「ペラペラとネタバレしやがって、気持ちよくなってんじゃねぇぞ!

 所詮しょせんはオレより弱いくせに、この雑魚ざこが! 弱者が!」


「そんな事はありません!!」


 ンーディオによる俺への罵倒ばとうに、突然デュヴェルコードが1歩前に出た。


「ロース様は、誰にも負けない優しさを持っておられます!

 仲間を大切に想い、魔族を愛し、優しい笑顔を皆にくださる、素晴らしい魔王です!」


「そうね、デュヴェルの言う通りだわ」


 デュヴェルコードに続き、レアコードも1歩前に出た。


「ロース様は、あたくしたちを導ける唯一の存在。そして慈愛じあいに満ち、相応ふさわしく君臨くんりんされる無二の御方かしら」


「お、お前たち……!」


 俺は、自然と声が震えた。


 フォローしてくれるのは嬉しいが、()()の否定はしてくれないんだな……!

 戦力に関しては、完全にノータッチだった。つまりコイツらの中で俺は、ただの優しい雑魚上司じゃないか……!


「ケッ! 虫酸むしずが爆走する仲良しごっこだな。

 取り巻き共からの信頼はアチィと見る。だがそれがテメェの強さなら、この先も到底オレには勝てねぇだろうな」


「なぜ私がお前に勝てないと言い切れる? 仲間の強さや頼もしさも、戦況を左右する重要なポイントだろ」


「なぜって……」


 剣幕けんまくな様子で予知を述べるンーディオに、俺は質問を投げかける。

 しかしその途端、ンーディオは足元に転がっていた床の破片はへんらしき小石を、俺に向け蹴り飛ばしてきた。


 これは……ンーディオの気まぐれな腹癒はらいせか、それともえてか。

 いったいコイツは、何を思って小石なんか蹴りやがった……!


 軽々しく蹴り飛ばされた小石は、ゆるやかな弾道を描き。


 ――ポコッ……。


 俺の片足に、当たってしまった。

 これは、非常にヤバい……!


「――なぜって、オレが魔王城を完全攻略しているからだ。当然、テメェの取り巻き共の事もな!」


 小石の事など気にもめない様子で、勝算を明かしたンーディオ。

 その間に、小石の被弾ひだんにより『プレンティ・オブ・ガッツ』が発動し、俺の体力は強制的に残りわずかとなった……。


 どうしよう。ンーディオの言葉など、ひとつも頭に入ってこない。それどころではない。

 まさかコイツ、言わないだけで俺の事も攻略していないよな……?


 俺は体力の減る苦痛を表に出さないよう、必死に耐えしのいだ。


「おいハーレム共、帰るぞ。対策を立てて出直しだ」


 ンーディオが号令を唱えた途端、パーティメンバーは一斉にンーディオの肩に手を添えた。


「いいか、魔王ロース。近いうちにまた狩りに来てやる。

 ハハッ! 次回はあばらでも洗って待ってるんだな!」


 だから洗って待つのは()だろ。今回はリブロースとでも言いたいのか?

 お肉で名前をイジるのは止めてほしい……!


「次こそテメェを滅ぼして、名誉めいよを手に入れてやるよ!

 そして…………とらわれた姫は返してもらうからな」


「おい、今なんて……」


 ンーディオの口から飛び出した思わぬ告発に、俺は咄嗟に聞き返そうとしたが。


「――『テレポート』」


 ンーディオはパーティメンバーと共に、瞬間移動で姿を消してしまった……。




作品を読んでいただき、ありがとうございます!

「ちょっと面白いかも」「次のページが気になる」と感じましたら、ブックマークやお星様★★★★★を付けていただけますと、大変嬉しいです!

皆様の応援が、作者のモチベーションとなりますので、是非よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ