表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/304

2話 転生事変2





 ――俺が、魔王……?


 自分の正体に疑念を抱いた俺は、恐る恐る指先を見てみた。


「なんだよ、この手……この爪……!」


 ゴツゴツとした太い指。鋭くみがかれた爪。人間離れした禍々(まがまが)しい拳……。

 俺の意思で動かせるこの手は、間違いなく俺の手。


「ロース様……? ど、どうなされて……」


 動揺する俺に、気を配ってくる少女。声は耳に入るものの、頭には入ってこない。

 俺は返事をする事なく、辺りを見回した。何か、全身を映せる鏡のような物は……。


 壁沿いを探っていると、数枚の窓が目に入った。自分の姿を確認するため、俺はトボトボと窓に向かい歩き出す。

 近づくにつれ、薄ぼんやりと映り始めるシルエット。

 窓に映る自分と目が合ったところで、俺は歩みを止めた。


「どう見ても、勇者じゃない……」


 自分の姿に、悪寒が走った。

 きたえられた肉体に、堅そうな2本のつの。鋭い眼光を放つ真っ赤な瞳。そして、白く美しい歯並び……。ホワイトニング仕立てみたいだ……!


「なぁ、聞いてもいいか? 俺は、誰だ……?」


 俺は少女に背を向けたまま、質問を飛ばした。


「えっ……! ま、魔王ロース様であらせられます」


「だよな……。そんな感じに見えるわ……」


 肩を落とすも、自分の放つオーラで分かる。少女の言う通り、これは紛れもなく魔王の姿。

 勇者になるはずが、正反対の魔王に転生したらしい。


「どうして、こんな事に」


 落ち込みながら、俺はエリシアの事を思い浮かべた。

 あのじゃじゃ馬女神の事だ。転生先を間違えた可能性は、十分あり得る。見るからに、適当そうだし……!

 もはやPV詐欺だろこれ。天界にクレームを入れてやりたい……!


 俺は落とした肩を戻し、改めて自分の姿を見つめる。


「もうひとつ、聞いてもいいか? 俺って……」


 俺は語りかけながら、勢いよく少女へと振り返った。


「俺の顔、超イケメンじゃない!? オーラは禍々(まがまが)しいけど、この顔は整いすぎだろ! 魔王のくせに!」

 

 前世の俺、つまり流崎亮の顔からは想像がつかないほど、大人びたイケメンの顔立ちになっていた。


「本当に、どうなされたのですか……! いつものロース様でないと申しますか。

 頭がパカになられたような……。『俺、カッコよくない?』発言は、正直申しあげて、いくらロース様でも……きしょいです」


 きしょいって……ごもっともです。自分大好き人間の域を、超えた発言でした。

 今は人間ではなく、魔族だが……。


「す、すまない。自分でも恥ずかしくなった。なんだか、長い時を眠っていた感じで、記憶と精神が混乱しているようだ。

 俺っ……いや、私の顔も忘れるほどにな」


 俺はこの場に似合いそうな、それらしい言い訳で謝罪した。どうか偶然にも、長い眠りから目覚めた魔王の体でありますように……。


「記憶障害を起こされていたとは……!

 知らず働いた、わたくしの無礼をお許しください」


 幼げなルックスとは裏腹に、折り目正しい振る舞いを見せる少女。


 つくづく今日は、分からない事しか起こらない。正直、膝から崩れおちたいほどの苦悩だ。崩れおちたところで、状況は何も変わらないだろうが……。

 願わくば、日本に帰りたい。

 天界にもクレームを入れたい。

 だが、状況把握(はあく)すらできていない今、それが実現できるとは思えない。

 なら今は、やれる事をやろう。まずは情報収集。


 幸いにも、俺は魔王という地位に立っているようだ。情報は集めやすいだろう。

 言葉遣いからして、目の前の少女は恐らく配下の者。いろいろと聞き出すには、都合がいい。


 そして……この世界と自分の地位に合わせ、俺も言葉遣いや振る舞いを、支配者らしく演じてみよう。


「知らなかった事だ、気にする事はない。

 今の私は、自分の立場はおろか、自分の名前すら忘れていた、無知な赤子同然の魔王だ。当然、お前の事も分からない。

 失った記憶を取り戻すためにも、私に知恵を貸してもらえないか?」


 俺の思い描く、魔王らしい口調にしてみたが、こんな感じで良いのだろうか……。


「わたくしの名もお忘れとは……少し、悲しいです。

 ですが、記憶を失くされた()()()()なロース様のためにも、わたくしが全力でサポート致します!」


 少女は立ち上がり、両手を胸の前でグッと握り締めた。

 誰が、わがままボディだ。勝手に無知をひとつ増やすなよ……!


「では改めまして、自己紹介を。…………なんだか、恥ずかしいですね……。

 本来ご存じなはずのお方に、名前を名乗るって、こんな気持ちになるのですねっ。複雑な新鮮味ですっ。未知のキュンキュン」


 少女はほほを赤らめ、両手で顔を覆った。

 魔族でも、乙女心を持っているのだろうか。少し可愛いな……!


「すまない。私にとってお前は、そこそこ初対面なのだが……」


「そっ、そうですよね。失礼致しました。

 わたくしは、魔王の側近を務めております、ダークエルフの……」


 少女が名乗ろうとした、その時。



『――定期連絡! 定期連絡! ただいま正門にて、敵軍の侵入を確認!

 お急ぎでないリスナーは、ただちに正門までお越しください!』


 突然、定期連絡とは思えない内容の放送が、少女の声をき消した……!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ