9話 反撃狼煙8
「――おい、オレのハーレム共! 今すぐオレの元に来い、興醒めだ!」
突然聖剣を納め、パーティメンバーを呼び戻そうと指示を叫んだンーディオ。
「はっ、はいでごじゃりゅ!」
すると真っ先に、近くで待機していたマイルが、チョビチョビとお遊戯走りでンーディオの隣に駆け寄った。
「ンーディオ様、マイルが1番乗りでしたじゃりゅ!」
「すまねぇマイル。語尾を噛みまくっているが、シカトしていいか?
今はオメェの下手可愛い語尾に、構ってやれるモチベじゃねぇんだ」
俺を睨みつけ、マイルの頭を優しく撫で始めたンーディオ。
シカトしていいかって、そんな失礼すぎる確認の取り方があるかっ……!
それにそこまで言ったら、もはや無視にならないだろ……!
ンーディオの睨みつけに対し、俺も負けじと視線を返していた。
そんな矢先に。
――コッコッコッ……。
「遅くなりましたわ、ロース様。ご無事でしたのね」
優雅なヒールの足音と共に、レアコードが俺の元へと歩み寄って来た。その隣には、足並みを揃えたデュヴェルコードの姿も。
「あぁ、何度か危なかったがな。お前も無事で何よりだ、レアコード」
「当然ですわ。勝負はつきませんでしたが、顔面プレーン如きに引けは取らないかしら」
「そうか。少しだけ様子は見ていたが、あの激闘で勝敗が決しなかったとはな。
お前を相手にして倒れないイマシエルも、大概だな」
「フフッ、くたばらない程度で相手をしておりましたので。顔面プレーンが痛がったら、どんな顔になるのか興味が湧きましたの。
残念ながら、いつまでも無表情を貫かれましたけど。なかなかのポーカーフェイスでしたわ」
無表情も何も、顔のパーツがないのだから無表情も作れないだろ……!
「どんな相手でも容赦ないな。お前に模擬戦を頼まなくて、本当に良かったよ……」
少し哀れみを感じながら、俺はイマシエルの姿を目で追ってみる。
すると既に、イマシエルはンーディオの元へと戻っていた。
「おいシノ!! いつまで寝転がってんだ、死んだフリはもういい! て言うか、相変わらず上手すぎなんだよ!
さっさと起きて戻って来い!」
残るメンバーのひとり、シノが戻らない事にご立腹の様子なンーディオ。
当の本人を見てみると、シノはいつまでも床に倒れたまま、召集に応じようとしていなかった。
「シノさんの反応がないでごじゃりゅ……。まさか、ひょっとして……!」
「おいシノ! まさかオメェ、ガチでくたばったか……」
少し不安そうな声色のンーディオ。
すると……。
「生きています! 心配そうな声が嬉しかったです」
途端に満面の笑みを浮かべ、シノは上半身を素早く起こした。
誰も見破れない名人芸のくせに、仲間の気を引く術として使うなよ。まったく紛らわしい。
ある意味ブラックジョークだな……!
「………………シノ、5秒以内にここへ来い。
でないとオメェの死んだフリが、フリじゃなくなるぞ。5……4……」
「わわわっ、怖いですよ! 待ってください!」
突然始まったンーディオのカウントダウンに、焦りながら立ち上がったシノ。
敗北後とは思えない速度のダッシュで、ンーディオの元へと駆け寄った。
すこぶる元気そうなシノだが、少し顔に違和感が……。
「ピッタリ5秒だ。だがオセェ! 呼んだら1回で来いゴラッ!
あといつも、5分前行動しろっつってんだろ!」
シノが到着するなり、理不尽な説教を始めるチンピラ勇者。
チンピラのくせして常識に厳しいのはいいが、時間の概念が分からないのか?
5秒以内の5分前行動ってなんだ……?
「すいません! ですが決して、悪ふざけなどでは。
私がやられたら、ンーディオ様はどんなお顔をされるのか知りたくなって……本気出しました」
「テメェはオレの顔色より、自分の顔を心配してろ」
「え?」
自身の顔の変化に気づいていない様子で、首を傾げたシノ。
俺もシノが駆け寄ってくるなり思ったが、恐らくデュヴェルコードのせいだろう。
知らない方が幸せだろうな……。
「おいイマシエル、出番だぞ。オメェの変装能力で、今のひでぇシノの顔を再現してやれ」
「アハハッ、お安いご用意。いきますよぉ」
シノと向き合い、自身の顔面を両手で覆ったイマシエル。
そしてすぐさま両手を退かし、シノの顔と瓜二つに装った顔面を露わにした。
ドッペルゲンガーの変装能力に、こんな使い道があったのか……!
まるで生きた3Dプリンターだな。
「うっそ……! 本当に?」
イマシエルの変装した顔面を見るなり、静かに嘆きだすシノ。そのまま両手で…………イマシエルの顔を触り始めた。
信じ難い光景なのは分かるが、確認目的なら自分の顔を触れよ……!
シノはしばらくの間……。変わり果てた自分そっくりのへちゃけた顔を、静かに触り続けた。
「っていう事だからなシノ。オメェはもう黙って、後ろにスッ込んでな」
ンーディオはシノの肩をポンポンと叩いた後に、俺たちの方へと向き直り。
「――終いだ……! 今日のところは、オレたちが引いてやる」
俺をジッと睨み、ンーディオは勇者パーティの帰還を宣言した。