9話 反撃狼煙4
「い、いつの間に私の後ろにいたのだ?」
「つい先ほどです」
突然声をかけられ振り向いた背後に、何食わぬ顔をしたデュヴェルコードが待機していた。
「そうか、気が付かなかった。お前がそこにいると言う事は、シノとの戦闘は……?」
「はい。あの残念な女は、ちゃんと黙らせて来ました。ヴイッ!」
デュヴェルコードは両手の人差し指をピンッと立て、口元で『V』の形にクロスさせた。
そこは普通、片手でチョキだろ……!
口元に両手で『V』を作られても、黙らせた『お口バッテン』に見えてしまうぞ。どちらにしろ、可愛らしいからいいが……。
「さすがは私の側近だが、まずは無事で何よりだ」
「わたくしが負ける事などあり得ませんが、ご心配をおかけしました。
あの残念な女の末路を、お聞きになりますか?」
「いや、戦果報告はまた後でいいが……。話す気なら、その口元の両手は降ろそうな。言いたいけど、言いたくないみたいだぞ。
それより先ほど、コジルドが飛んでいると申したか?」
「はい、申した通りです。コジルドさんは飛んでいます」
「いったい……どう言うカラクリだ? 魔法の類いか何かか?」
「恐れながら、少し違います。あの飛行能力は、コジルドさん独自のものです。
わたくしのオッドアイと同じく、生まれつき特殊な力を授かったそうです。
その証拠に、コジルドさんをご覧ください」
デュヴェルコードは促すように、コジルドへ指を差した。
「ヴァンパイアにして、翼を授かったそうですよ」
「………………見えないんだが」
俺はパチパチと瞬きを繰り返しながら、注意深くコジルドを観察する。
しかしどんなに目を凝らしても、翼らしき物体は確認できない。
「デュヴェルコードよ、どこに翼が生えているのだ?」
「さぁ……分かりません。わたくしも見た事がないので」
「はっ?」
「コジルドさん曰く、翼を見られるのが恥ずかしいとか。誰も見ていない時に、ひとりで転ぶ羞恥より恥ずかしいと申しておりました。
普段は不可視化の魔法で、翼を隠していると聞き及んでいます」
………………いったい、どこからツッコめば……!
おかしな点しかない。
まず羞恥度合いの例えが、独特すぎるんだが。確かに転んだ時、誰も見ていないと余計に恥ずかしいけど……!
それにコジルドのような厨二なら、生まれつきの特別な才能なんて大好物のはずだろ。増してや翼だし!
恥知らずで独善的で痛い発言ばかりするようなヤツが、どこ恥ずかしがってんだ……。
それより、1番ツッコミたいのは。
「デュヴェルコードよ、そもそも見えない翼なのに、どうして私に見るよう仕向けたのだ。
凄まじく無駄だったんだが……!」
「あぁっ、はい。申し訳ありませんっ。本当に見るとは思いませんでした。
それよりもロース様! わたくしの戦果報告をお聞きください!」
悪びれる様子もなく、すぐさま話を切り替えたデュヴェルコード。
平気な顔して、魔王をイジるな……!
「何がそれよりだ。今思いっきりバカにしていただろ。
それにこんな状況で、戦果報告? 全て片付いてからではダメなのか?」
目の前でコジルドが死闘を繰り広げる最中、デュヴェルコードは堪らなく言いたそうな目を向けてくる。
この状況で言いたいほどの快勝だったのか、それとも単に構ってちゃんなのか……。
確認がてらに、俺はシノの方に視界を移してみる。
するとシノは、少し離れた所で静かに倒れていた。
「ピクリとも動かないが……あれはシノの十八番である死んだフリか? それとも本物の亡骸か?」
「手応えはそこそこでしたが、その答えは皆無です。だって誰にも見破れないのですから」
「そうだったな、相変わらず残念な女だ……。それで、どうやって勝利したのだ? お得意の闇魔法か?」
俺が質問するなり、デュヴェルコードは両手を腰に当て満面の笑みを浮かべた。
「もちろん、今回は魔法で快勝致しました! なんと言ったって、わたくしは魔王の側近にして、生まれながらの天才魔法使いですら!
もう可笑しくて可笑しくて、アハハッ!」
デュヴェルコードの表情が満面の笑みから、徐々に思い出し笑いのようなニヤつき顔に変わっていく。
アハハッって、なんだか真っ当な戦闘でなかった予感がする……!