8話 個々死闘9
「――我と共に、闇を遊ばないか……?」
ンーディオの戦闘態勢に合わせ、槍を構えたコジルド。
「テメェ……恥ずかしくねぇのか? 大人しく棺の中にいた方が幸せな気がするぞ」
敵でありながら、顔を引き攣らせるンーディオ。
チンピラ勇者に共感するつもりはないが、俺もそう思う……。
「二流勇者はセンスまで二流のようであるな。頭かわいそうに思えてきたぞ」
「頭かわいそうなのはテメェだろうが! 後ろを見てみろ!
魔王ですら、顔が引き攣ってんじゃねぇか!」
ンーディオの忠告に、俺へと素早く振り向いてきたコジルド。
「ロ、ロース様……? そのお顔に浮かびし表情は……」
「目の前で『闇を遊ばないか』なんて聞けば、誰だってこんな顔になるわ……!」
俺は包み隠さず、コジルドにドン引きの表情を見せた。
「お身体へのダメージから、気まで滅入られたようですな。
早急な回復が必要でしょうが、これだけはお約束ください」
意味深な趣で、床に溢れた回復薬を指差すコジルド。
「その床に流れた回復薬を、お舐めになってはなりませぬぞ……!
生にしがみつく余り、床に這いつくばって舌をチロチロさせるロース様など……見たくありませぬゆえ」
「…………はっ? お前、何言って……」
「どうか命欲しさに……魔王辞めないで」
嘆かわしそうに、俺に情けの眼差しを向けてくるコジルド。
なんだよ、その人間辞めないでみたいな言い方……!
「図々しいお節介だな。言われなくても、これを舐めて回復するほど落ちぶれていな…………コ、コジルドッ! 後ろ!」
俺は咄嗟に、コジルドへ叫んだ。
コジルドの背後で、ンーディオが聖剣を振りかぶり初速を切る姿が見えたのだ。
コジルドは途端に振り返り、反応よくンーディオの聖剣を槍で食い止めた。
しかしンーディオは一撃で止まらず、次々と乱打を繰り出していく。
「ええい、忌々しい! 誰も彼も、我に『あっち見ろ』と視線移動を促しおって。
これではまるで、1対多数のあっち向いてホイではないか!」
ンーディオの乱打を防戦しつつ、不満を漏らすコジルド。
その例えだと、全て素直に振り向いているお前は、全敗した事になるぞ……!
て言うか、忌々しさを愚痴るポイントそこかよ。
次第にンーディオの猛攻は激しさを増していき、防御に徹するコジルドは後方へと押され始めた。
ジリジリと近づくコジルドの背中を前に、俺は自ずと拳を握り締める。
「コジルド! お前の持つ槍のリーチでは、ンーディオの間合いに分が悪い!
一旦距離をとって、立て直すんだ!」
「ロース様ぁーー!」
背を向けたまま、謎に俺の名を叫ぶコジルド。
今のは……いったい何目的の呼名だ? 了解なのか反論なのか、全く趣旨が分からない……!
「なんで名前だけ叫んだんだ! 意味が分からないが、いいから1度立て直すんだ!
その間合いだと、ご自慢の愛槍には窮屈だろ!」
「ディスタンス……! 簡単に申されますが、先ほどから我もこのアウェイを抜け出そうと試みておりますぞ。
しかしこの小悪党も勇者の端くれ、なかなかその隙も見せずネチネチと!」
コジルドの解説と共に、ンーディオの目つきが鋭く変わった。
「誰が端くれだゴラッ! ガッツリ勇者の最中だろ!」
コジルドの失言に、ますます攻撃を強めていくンーディオ。
ガッツリ勇者は理解できるが、ガッツリ勇者の最中ってなんだよ……!
たらふく食べたい勇者の和菓子みたいだ……。
端ではなく、真ん中と言いたかったのだろうか?
しかしあのコジルドでさえ、ンーディオの猛攻に押されている。
このままではコジルドに勝機は傾かず、直に敗北を迎えてしまうかもしれない。
何か、何かないか……!
俺がしてやれる事が、きっとあるはずだ……!
ひとり思考を巡らせながら、辺りをキョロキョロと見回していた。そんな矢先に、ふと目の前に溢れた回復薬が視界に入る。
「少しでも回復できれば、一撃をもらう覚悟で加勢してやれる……!
やはりこの床に溢れた回復薬を……いやいや、ダメだ!」
良からぬ事を過らせながら、俺は床に両手を着いた。
「ないなら……手に入れるまでだ……!」
――俺は咄嗟に閃くなり、ポケットからある物を取り出した。
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