8話 個々死闘8
迫り来るンーディオを前に、俺は絶体絶命のピンチを迎えていた。
そんな矢先に。
「――我、降臨っ……!」
俺を守護するかの如く、目の前にコジルドが姿を現した。
構わず突っ込んでくるンーディオを前に、コジルドは素早く愛槍を構え……。
――ギィィィン……!
臆する事なく、真っ向からンーディオの剣技を食い止めた。
「なっ! テ、テメェは……心のわだかまり野郎! なぜ生きてやがる!」
剣技を止められるなり、驚きと怒りを剥き出すンーディオ。
心のわだかまり野郎って……。なんて可哀そうなネーミングだ……!
「フハハッ! 久しぶりだな二流勇者よ。
ロース様をお守りするべく、地獄の底から馳せ参じたのだ!」
「チッ! 相変わらずイテェ野郎だ。いいところで邪魔しやがって」
ンーディオは舌打ちをしながら、コジルドに向け鋭い睨みをきかす。
周りからすれば、こんな独善的で痛々しい言動をするヤツは、煙たく感じられるのかもしれない。現に魔王城の中で嫌われているし、ンーディオにも皮肉を言われている始末だ。
しかし……そんなコジルドでも、今の俺にとっては……!
「お前は、希望の光だな……。よく来てくれた」
「ロース様、それは少しばかり違いますぞ。我はヴァンパイア、光を忌み嫌いし者。
我からすれば希望の光など、戯けたまやかし。本当の希望は闇の中にしかありませんぞ」
俺に背を向けたまま、余計な訂正を入れてくるコジルド。
さっきの感心は取り消し……。やっぱコイツ、痛いわ。コジルドだわ……!
「せっかく見直していたのに、台無しだな。言葉の意味もヤバいが、発言自体が別ベクトルでヤバいぞ……!」
「アバウツ……! それでもロース様は我を信頼された上で、我を隠し球として起用されました。
そんなロース様の信頼と采配が正しかったと、我が証明してみせま……しょうっ!」
コジルドは語調に合わせ、槍と競り合う聖剣を勢いよく振り払った。
隠し球を命じたのは信頼ではなく、都合が良かっただけなのだが……。
聖剣を弾かれたンーディオは、そのまま流れるようにバックステップで少しの距離をとった。
「おい、心のわだかまり野郎。そこを退け、邪魔すんな。
オレはテメェの後ろにいる、尻もち着いた魔王に用があんだ」
「フハハッ、貴様でも冗談が言えるのだな。我を差しおいて、ロース様と戦うなど烏滸がましい。
我にも貴様との因縁がある事を、忘れたとは言わせぬぞ。このズル賢い小悪党め!」
「どうやら、また棺送りにされてぇらしいな。
テメェは既に攻略し尽くしてんだ、イキがんなよ」
「攻略だと? フハハッ、2度も同じ手を食うわけがなかろう。
その前に…………ロース様、これを」
いがみ合う最中、背後の俺にチラリと顔だけを振り向かせてきたコジルド。
すると何やら、ポケットから小さな瓶を取り出し。
「細やかながら回復薬です。
今のロース様でしたら、少しの回復で事足りるはずですぞ。これで回復を……!」
背後で尻もちを着いたままの俺に向け、コジルドはスナップスローで瓶を投げてきた。
しかし……。
「バ、バカッ。どこ投げてっ……!」
――パリンッ……!
呆気なく割れ散る、ガラスの破片。
コジルドの投げた瓶は、俺の元に届く事なく……。
「コジルドよ、これは性格関係なしに……痛いぞ」
咄嗟に身を乗り出し掴み取ろうとした俺の前で、瓶は床に落下し割れてしまった。
虚しく割れた瓶の中から、床に回復薬の液体が流れ出ていく。
「……………………デュヴェルコードよ! ロース様に回復魔法を!」
「パカな事を言わないでください!! ご自身でなさればいいでしょ!」
焦り気味に要請するコジルドに対し、戦闘中でありながら怒鳴り声を上げるデュヴェルコード。
自分の失態を、なりふり構わず同胞になすりつけるなよ。余計に痛いぞ……!
「フハ、フハハッ……。まったく、小娘と言うヤツはワガママであるな。側近の責務を果たさぬとは」
「側近の責務と言うより、ただの尻拭いだろ……!
ろくに私との距離感も分からないまま、雰囲気だけで瓶を投げるなよ」
小さく震えるコジルドの背中を見つめ、俺は力なく指摘した。
すると。
「おいっ、心のわだかまり野郎! いつまで突っ立ってやがる!
退かねぇならテメェから始末するまでだ」
ンーディオはコジルドに向け、聖剣を構えた。
「貴様からは知性を感じぬな、二流勇者。退く気など、ハナから持ち合わせてはおらぬ。
しばらくの間、貴様には我の復讐に付き合ってもらうぞ……」
引けを取らずコジルドも、戦意の溢れる構えをとる。
「――忌々しき人族の勇者よ。我と共に、闇を遊ばないか……?」
恥じらう様子もなく、ドスをきかせた低い声で言ってのけるコジルド。
誰かコイツに、聞いている方が恥ずかしい感覚を教えてやってくれ……!




