8話 個々死闘3
弓矢を構え直し、デュヴェルコードに必中を宣告したシノ。
「私の『マジックアロー』は、属性を付与するだけのスケールで止まらない。
覚悟しなさいよロリエルフ!」
鋭い眼差しで、シノはデュヴェルコードに狙いを定める。
「デュヴェルコードよ、いざとなったら私に構わず応戦しろ。
これがハッタリでなければ、私を庇いながらの戦闘は厳しいだろう。増してや相手は勇者の右腕だ」
「ご安心ください。どんな敵さんが相手でも、ロース様をお守りする事はわたくしの使命ですから。
ずっとお側に仕えさせてください」
デュヴェルコードはシノから目を離さないまま、可愛らしく優しい笑みを浮かべる。
こんな小さな体で、なんて逞しさだ。側近としての責任感がジンジン伝わってくる……。
「私のとっておき。『ショットガンアロー』を食らえ、ロリエルフ!」
シノが技名を明かすなり、デュヴェルコードの肩がピクリと反応した。そしてシノをジッと見つめたまま、真っ先に俺へと片手を翳し。
「お、おい。なぜ私に手を向け……」
「『トゥレメンダス・クリエイトオブジェクト』、『ウィンド・ブースト』!」
俺の質問を遮り、連続で魔法を詠唱したデュヴェルコード。
俺の左腕に盾のような板が出現すると同時に、翳されたデュヴェルコードの片手から、凄まじい突風が噴出された。
「ぐおぉ! なんだ突然!」
立っていられないほどの強力な突風に、俺の体は横へと吹き飛ばされた。
「ロース様! やっぱり離れていてください!
これは庇いながらだと、ちょっと手に余りそうです!
生成したその盾で、なんとか上手くやりくりなさってください!」
「そうだとしても扱い方! これでは退避と言うより、厄介払いじゃないか!」
重量差をものともしない突風に飛ばされながら、俺は不満をぶちまけた。
先ほどまで側に仕えたいと言っていた者の所業とは、とても思えない突き放し方だ……!
数メートル飛ばされたところで……。
突風は次第に弱まり、俺は体のバランスを取りながら両足で着地した。
そして……。
「『ショットガンアロー』!」
「『クリスタルドーム』!」
シノは矢を放ち、デュヴェルコードはシールドを張った。
「矢が……散弾!?」
シノの放った矢は分離を始め、一方向の広範囲に拡散していく。それは文字通り、ショットガンの散弾そのものだった。
デュヴェルコードが咄嗟に俺を突き放した理由が、分かった気がする。だとしても、魔王に対する扱いではなかったが……!
デュヴェルコードたちの対峙を眺めていると、その先で戦うレアコードたちの姿がチラリと目に入った。
「あのドッペルゲンガー……。レアコードと張り合っている……!」
レアコードたちの戦いも気になり、俺は奥へと注目してみる。
するとそこは、いつの間にか激戦区と化していた。
魔法を織り交ぜた剣捌きで、魔剣ウィケッドを振るうレアコード。
それに対し、引けを取らない軽快な身のこなしで、ダガーを振るい渡り合うイマシエル。
激しくぶつかり合うふたりの光景は、まさに死闘そのもの。
レアコードの強さは折り紙付きだが、イマシエルがその強さに匹敵するとは思いも寄らなかった。
「どこが荷物運びの補欠ヒーラーだよ。ゴリゴリじゃないか……!
身のこなしが、まるで曲芸なんだが……!
その場凌ぎの嘘でもついて、アイツを魔王軍に引き止めれば良かった」
勢いを増していく激闘に、目を奪われていた。
その時……!
「――どこ見てんだ。テメェの相手は、このオレだ……!」
視界の外から聞こえてきた、ンーディオの声。
俺は咄嗟に、声のする方へ視界を移した。
振り向いた先には、聖剣を振りかぶり飛び込んでくる、ンーディオの姿が。
「コイツ、いつの間に……!」
出遅れた俺の頭上に、聖剣エクスクラメーションの真っ赤な剣身が、容赦なく降りかかってきた。