8話 個々死闘1
――余裕を見せるレアコードに、ダガーを構え進撃を開始したイマシエル。
「隙だらけね、レアコード!」
瞬く間に間合いへと入ったイマシエルは、構えたダガーを走る勢いのままレアコードの胸元に突き出した。
――ギィィン……!
刃同士の打ち当たる衝撃音が、玉座の間に響く。
「どこに隙があるのかしら、顔面プレーン」
間一髪のタイミングで、胸元に振りかかったダガーを食い止めたレアコード。
装備していた魔剣ウィケッドの剣身を、鞘から数センチほど抜き出し、ダガーの刃を受け止めていた。
ふたりは武器を引くことなく、その場でギリギリと白刃を競り合わせる。
「そのプレーンって表現、腹立つ! ンーディオ様は足止めするよう命じられたけど、フルボッコに変更する!」
「フフッ。やってみなさいよ、セルフいないいないバー」
「やっぱり抹殺に変更っ!」
俺の隣で勃発する、魔族同士のいがみ合い。
そんな最中、ダガーから片手を離したイマシエル。そのまま離した片手を、レアコードの顔に向け真っ直ぐ伸ばした。
「ゼロ距離の火炎魔法で、チリも残さず燃やし尽くす!」
次の一手を明かすなり、イマシエルの翳した手の先に真っ赤な魔法陣が出現した。
「直火を食らえ! インフェル……!」
イマシエルが火炎魔法『インフェルノ』を唱えかけた瞬間……!
「隙だらけは、あんたの方よ」
――ドフッ!
「ガハッ!!!」
イマシエルの腹に、レアコードのヒール蹴りが痛快に入った。
鋭い蹴りを受けたイマシエルは、そのまま『く』の字に体を丸め、ゴロゴロと床の上を跳ね転がっていく。
まるで、出来損ないのタイヤのように、ゴロゴロと……。
「み、見事な蹴りだな、レアコードよ……。さすがは最終エリアボスだ」
「当然ですわ。魔法発動前に、あれだけペラペラと喋るんですもの。隙しかありませんでしたわ。
バカでも蹴り込めるかしら」
「………………やっぱり訂正。さすが、ドライモンスターだ」
「フフッ。あたくしは敵に、慈悲も隙も与えるつもりはないので。
あの顔面プレーンが痛がり転がっているうちに、このまま畳みかけてきますわ」
無慈悲な目論見を宣言するなり。
「ロース様。死なないよう、どうかお気をつけて」
失速する事なく転がり続けるイマシエルを目掛けて、レアコードは駆けて行った。
「敵に痛がる暇も与えないとは。戦術まで冷酷だな。
挙句に自分の心配より、私の心配を言い残して行くとは……」
今のは魔王の身を案じた物言いではなく、雑魚扱いしたニュアンスだった気が……!
「それがレア姉ですから。どんな戦況におかれても、パフォーマンスを落とす事はありません。あの冷酷さゆえの、絶対的な強さです」
俺の隣で、便乗するように呟いてきたデュヴェルコード。
見ると不安の欠片も感じない、落ち着いた表情を浮かばせていた。
最終エリアボスを務めてきた姉に、絶対の信頼をおいているのだろうか……。
「そうだな……見ていて感じるぞ。パフォーマンスの落ちない様子。…………特に容赦のないトゲ発言とか……!」
「特には戦闘能力の方だと思うのですが……。まぁそれでも、魔法はわたくしの方が遥かに強力ですけど」
姉をダシに自己アピールも欠かさない、対抗心を剥き出す妹エルフ。
戦闘中の姉を前にして、チヤホヤ感を求めるなよ。こんな所でヨイショなんて、意地でもしてやらないぞ……!
何食わぬ顔で自慢する、無頓着なデュヴェルコードに気を取られていた。
その時……!
「――『アイスショットアロー』……!」
視界の外から、シノによる詠唱が微かに聞こえてきた。