7話 裏切御免8
ンーディオのひと言により、玉座の椅子周辺で武器を構えた勇者パーティ。
場は張り詰めた雰囲気へと急変し、俺の胸に緊張が走る。
「どうやら敵さん、やる気になったようですね。応戦致しますか?」
「当然だ。相手がやる気なら、こちらも応戦せざるを得ない。ふたりとも、頼むぞ」
口では強がっているものの、内心は怯えている感覚がある。
以前と違い、今回は念入りに計画した作戦などない。そして、勇猛果敢に挑める自信もない。
コジルドと模擬戦を交えたとは言え、戦闘経験と呼べる程の訓練には至らなかった。微々たる経験値に過ぎない。
そんな今の俺に、前線で戦う度胸など備わっているはずもない。
逃げられるものなら、この場で回れ右をして逃げ出したい……。
「レアコードよ、少し頼まれてくれないか?」
「何をかしら?」
「私の背中に1発、喝を入れてくれ。平手でも食らえば、身が引き締まる……!」
「なんて難しい注文をなさるのかしら、ロース様。それは無茶振りに等しいですわよ」
思いのほかレアコードに渋られ、俺は顔を振り向かせる。
「どこが難しいのだ? 冷酷なお前なら適任だろ」
「平手の1発くらい容易いですが、ご自身の特性をお忘れ?
二撃食らえばお逝きになる、か弱いお体ですのに。今ここで虫の息になりたいのかしら?」
レアコードの喚起で、俺は自分に備わった厄介なスキルの存在を思い出す。
そう言えば、どんな攻撃を受けても体力が残りわずかになる、『プレンティ・オブ・ガッツ』があるんだった。
喝を入れる事すら命懸けなのかよ……!
「こ、攻撃意思を持たずに叩けるか?」
「無理ですわ。ご自身でどうぞ」
「そうか……。無理を言ってすまんな、忘れてくれ」
――ペシッ……!
俺は顔を引き攣らせ、自分の頬に空っぽの平手を軽く打った。
どうやら自身で打つ攻撃意思を持たないビンタに、スキルは効果をなさないようだ。
「おい魔王! いつまでコソコソ駄弁ってやがる!
別れの挨拶なら、くたばってからにしろ!」
怒声を放つなり、ンーディオはシノの方へと向いた。
そして、片手をシノの肩に力強く添え。
「いいかシノ……! オレは魔王をシバく。その間は、オメェにとっておきの相手をくれてやる。
レアコードを足止め……いや、ボコってこい!」
「この勇者の右腕にお任せください! レアコードには1度、トドメを刺した実績もありますので!」
シノはンーディオから目線を切るなり、勝ち誇ったような趣を俺たちに向けてきた。
「レアコード! また私とここで戦う気分はどう? お前は確かその辺で、私からトドメを受けたわね。
そして私はあの隅に身を潜め、股下をソワつかせながら射抜いてやったわ!」
あちこちと落ち着きなく、各位置に指を差すシノ。
「何が身を潜めてよ、ただの死んだフリでしょ。この勘違いブス」
「だっ誰がブスよ! ちょっと美貌に恵まれているからって、魔族のクセに色気づいてんじゃないわよ! この中身残念美女が!」
「それはお前だろ……!」
俺はブーメラン発言を叫ぶシノに、呆れながらツッコんだ。
「ロース様に同じくです。付け加えさせていただくと、フルネームがしんどい下品で残念な女です」
「何がしんどい名前よ! ンーディオ様。せっかくのご指名ですが、やっぱりチェンジでお願いします!
あの生意気なロリエフルを、この手で黙らせたいです!」
「ハハッ! 早ぇ話、オメェがあのダークエルフ姉妹をやればいいじゃねぇか!」
手荒な無茶振りを言いつけ、ヘラヘラとシノに笑いかけるンーディオ。
「いやっ……それはさすがに……! ふたり同時は手に余ると言うか、負担量の配分が鬼畜と言うか……」
「あぁ? オメェは右腕だろ、文句あんのか?」
「………………あ、あるません。漏らす前に飲んじゃったので」
何か言いたげに、目を泳がせ誤魔化すシノ。
あるませんって、どっちだよ。相変わらず言い訳も下品で残念な表現だ……!
「ンーディオ様、こう言うのはいかがです? このイマシエルが、レアコードの足止めを務めましょう」
「ハハッ! 荷物運びの補欠ヒーラー如きが、デカく出やがったな。オメェに務まんのか?」
「ご安心を! ンーディオ様のためですから。
それに先立ち、剣をひと振りお借りしても? レアコードを相手に、杖では分が悪いので」
「好きな得物をくれてやる。オレを失望させんなよ、イマシエル。
オメェの働き次第で、補欠から予備に昇格させてやる」
「アハハッ! ではダガーで! 補欠と予備の差は分かりませんが、最善を尽くします」
イマシエルは杖を手放し、カバンからひと振りの短剣を取り出した。
笑声は聞こえたものの、あれは笑いかけているのだろうか……?
顔のパーツがないため、表情が読めない。ただただ不気味なんだが……!
「右腕のシノさん? あの娘っ子をお願いしますね」
「それはいいけど……。その顔、なんとかならない?
話していても表情が読めないし、その顔じゃ街に戻れないわよ」
「アハハッ、これは失礼。レアコードの相手が終わり次第、人族の顔に戻しますね」
シノに軽い敬礼を送った後、イマシエルはレアコードに向けスタートの構えを取り。
「では……レアコードの相手は、このイマシエルにお任せをっ!」
力強い初速を切り、イマシエルは目覚ましい速度で距離を詰め始めた。
「レアコード! 応戦しろ!」
「無論ですわ」
向かってくる敵を前に、余裕を見せ続けるレアコード。
「隙だらけね、レアコード!」
イマシエルはダガーを構え、冷静に佇むレアコードの間合いに勢いよく飛び込んだ……!
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