7話 裏切御免7
聖剣の名を言い切る前に、デュヴェルコードは大袈裟に固唾を呑んだ。
「デュヴェルコードよ。あの聖剣の名は、エクス……なんだ?」
俺は聖剣名の続きが気になり、デュヴェルコードに問いかける。
まさかあの有名な聖剣が、この世界に実在しているのか……!?
だとすると、敵ながら少し高揚感が湧いてくる。異世界とは言え、まさかお目にかかれる事ができるとは……!
「あれは聖剣、エクス……! 『エクスクラメーション』です……!」
「………………はっ? クラメーション?」
「はい。魔族にとって脅威となり得る聖剣、『エクスクラメーション』です!」
「えっ……いや……カリバーではないのか?」
予想と違った珍妙な聖剣名を聞き、俺は念のために再確認してみる。
エクスクラメーションって、ビックリマークの事だよな……?
「なんですか、カリバーって。どこからどう見ても、あれは『エクスクラメーション』ですが」
まるで無知な大人に疑問を抱く健気な少女のように、俺を見つめてくるデュヴェルコード。
なんだよ、その感嘆符みたいな聖剣の名前は……。
今は俺の脳内が、ビックリマークなんだが……!
「スキャンダルと言い、エクスクラメーションと言い……。この世界には、まともな聖剣名をつける者がいないのか……?」
「それだけ人族が、低知能と言うわけです」
デュヴェルコードは諭すように、人族である勇者パーティに顔を向け直した。
――そんな低知能呼ばわりする人族に、完全攻略まで追い込まれたのは魔王軍だけどな……!
「何をコソコソと駄弁ってやがる魔王。また下らねぇ小細工でも仕掛けてくんのか?」
真っ赤な剣身を振り上げ、聖剣を肩に担いだンーディオ。
名前に影響され、あの聖剣自体がだんだん赤いビックリマークに見えてきた……。
「そうではない。先に聞いておくがンーディオよ、聖剣スキャンダルはどうした?」
「ハハッ! 捨てたに決まってんだろ、あんな骨董品」
「捨てただと!?」
「そんな驚く事でもねぇだろ! 盗賊をシバいたら、なんか血がついちまったからよ。レトロにもノスタルジーにも興味ねぇし、汚ねぇから捨てちまった」
悪びれる様子もなく、ヘラヘラと笑いながら語るンーディオ。
引き継がれてきた聖剣の歴史を、お前の代で軽々しく途絶えさせるなよ……!
「魔王である私が、聖剣の事をとやかく言う義理はないが……。
使い切り品ではあるまいし、せめて捨てるなよ。それでも勇者か?」
「あぁ!? 断捨離すんのに、勇者の肩書きは関係ねぇだろ。
テメェだって、気分に合わせてコーディネートくらいするだろ? それと違いがあんのか?
今日は汚ねぇ聖剣を持つ気にならなかった。だから新調ついでに、いっそ開き直って捨てただけだ!」
どうやらこのチンピラ勇者にとって、聖剣はアクセサリー感覚の代物でしかないようだ……。
「ファッションアイテムかよ。持ち主に恵まれず、聖剣スキャンダルも気の毒にな」
「オレは無機物なんかに、情を抱かねぇんだよ。オレが信じられるのは、己の強さと仲間のコイツらだけだ」
ンーディオが仲間の信頼を明かした途端、勇者パーティ全員の目つきが鋭く変わった。
さっきはその内のひとりに、裏切られかけていたが……。そこは律儀に、勇者らしい発言をするんだな。
「耳障りな御託は聞き飽きた! おい魔王、今日は挨拶も手加減もなしだ!
長ったりぃこの紛争に、ようやく終止符を打つ時がきた!」
「先ほどから御託を並べていたのはお前だろ」
「ハハッ! 口の減らねぇ脳筋だ。
おいオメェら、準備はいいな?」
ンーディオはパーティへ呼びかけると共に、剣先を勢いよく床に振り下ろした。
その途端、ンーディオの隣に控える3人が、各々の武器を構える。
「――さぁて……! ラスボス狩りの、始まりだ……!」