1話 天界展開6
ジワジワと浮かび上がる、カード表面の文字たち。
「おい、これマジかよっ……!」
脈々と文字列を築いていく様子に、俺は困惑を露わにした。
「…………全く、読めないぞ。
見た事もない文字がジワジワと出てきて、なんだか気味が悪いな……」
「あなた、つくづく罰当たりね。由緒正しき天界文字に対して、気味が悪いだなんて」
どうやら浮かび上がったのは、天界の文字らしい。
ウネウネと繋がっていて、俺にはバイタル不安定な心電図にしか見えないのだが……!
「授与の完了ね、これで使えるわ。早速だけど、チュートリアルを始めます。
簡単に説明すると、このカードで様々な武器や魔法、スキルを得る事ができるの。さっき与えたポイントの消費と引き換えにね!
どお? シンプルで有能でしょ?
使い方次第で、自分に合った力を手に入れられる。魔剣みたいなワンマン武器より、ずっと頼れるトクテンでしょ!」
人差し指をピンッと立て、自慢げにウィンクを飛ばしてくるエリシア。
「なるほど……! 確かに臨機応変で、使い勝手が良さそうですね。
ところで、肝心の使い方は?」
俺の質問を受けるなり、エリシアはカードを指でスルスルとなぞり始めた。そして。
――トンッ……!
エリシアはなぞる指を止め、シメのエンターキーを押すように、カードの端を軽くプッシュした。
すると、カードから淡い光が。
「光り出した……あれ……?
なんか体が……ソワソワする。ゾクゾク、ソワソワしてきたんですけど……!」
カードが光ると同時に、俺の体がザワつきだす。目に見える変化はない。だが体が感じている。
――漲る、新たな力の可能性を。
不思議な感覚を受け、俺は手に持つカードへと視線を移してみた。
「『オブテイン・キー』……! えっ、読める! 文字は変わらずウネウネのままだけど、理解も朗読もできる!」
カードの名前だろうか? 読めるはずのない天界文字を読み上げた俺は、驚きのあまりジッとカードを凝視した。
突然の変化に、俺は思わずエリシアへと視線を上げる。
「ふふっ……」
この上ない、女神のドヤ顔。
チュートリアル中の死者相手に、女神が勝ち誇らないでください……。
「どお? 実感したでしょ。駆け出しには欠かせない万能スキル、『オール・ランゲージ』を取得させたわ。あらゆる言語に対応しているから、どんな言葉でも話せるわ。
カードの文字も読めるようになったし、これで『オブテイン・キー』の操作も可能ね」
「本当だ、操作方法も読める。
あらゆる言語に対応なら、異世界に行っても会話に困らない。確かに万能スキルだ」
「そうそう! 魔剣を持って転生しても、いきなり言葉の壁ドンにあったら、生きていけないでしょ? 即キュン死よ」
エリシアはカードから手を離し、短いスカートをひらつかせ、1歩後ろへと後退した。
それにしても、言葉の壁ドンって……。仮にぶち当たっても、言葉が通じないシチュエーションにときめくような、特殊な性癖は持っていません。
「これで、チュートリアル終了です。
指先ひとつで、能力や武器が手に入るようになったし。あとは転生するだけね!」
「今更ですが……。知らない異世界を救って、俺に何かメリットはあるのですか? 『異世界を救った暁に……』みたいな、成功報酬とかは?」
「もちろん報酬はあるけど、それは異世界を救った暁に教えてあげます。この上なく特別な、選択の権利と言う報酬を……!
それより今は、余計な事なんて考えずに、さっさと異世界に転生してください!」
さらに数歩ほど、俺から距離をとったエリシア。右手を顔の横に翳し、親指と中指を立てた。
これはまさか、鳴らない指パッチン……!
2本の指が、勢いよくすれ違うと共に……。
――ポキッ!
指から、鳴ってはいけない音が聞こえてきた。
もしかして、折れた……?
「今の、指パッチンした音じゃないですよね。中指の角度、おかしいですよ……」
「う、うるさいわね! 女神の指は、こんな音を立てるのよ!」
慌てふためくエリシアの怒声を浴びていると……俺の足元に。
「うわっ、なんだこれ! マンホール、いや魔法陣!?」
エリシアの能力だろうか。俺の足元を包み込むように、巨大な魔法陣が出現した。
「ソリが合わない死者でしたが、流崎亮さん。どうか、お気をつけて。
あなたが世界を救えるよう、影から見てますね」
ストーカー発言じゃないか。そこは、陰ながら応援してください……!
俺は、残念な激励を聞き入れ、何も言わずにコクリと頷いた。
恐らく俺の足元に現れたのは、転生用の魔法陣。いくら俺でも、それくらいの予想はつく。きっと体が浮き上がり、転生先に送られる流れだろう。
これから、異世界を救う勇者になるのだ。体が浮いても慌てず、凛とした雰囲気で天を舞おう。
――異世界へ、飛び立つ時だ。
俺は目を瞑り、静かに上を向いた。
だが、何か足元に違和感が……!
「なんだか、沈んでないか……?
気のせいじゃない……! 沈んでる、これ沈んでるって! 魔法陣に引き摺り込まれてる!」
予期せぬ展開に、俺は見窄らしく慌て始めた。沈んでいく恐怖に平常を保てず、カードを握り締め体をバタつかせる。
「出発くらい、カッコよく体が浮き上がったりするだろ、普通!
沈むとかイメージ悪いわ! もう胸まで埋まって……!」
体が沈んでいく最中。ふとエリシアの方を見てみると……!
「…………………………」
何も言わず、エリシアは沈んでいく俺に不審な目を向けながら……。短いスカートの裾を、手で押さえていた。
「なにパンチラ警戒してんだ! こんな時に覗くか!! 急に女神から乙女かよ!
その汚いものを見る目、止めてください! これじゃまるで、地獄オチじゃないか……」
見送りとは思えない、不審な視線を放つエリシア。こんな煮え切らない出発をさせられるとは……。
次第に俺の体は沈みきり、エリシアも真っ赤な空間も、見えなくなった。
深く、真っ暗な景色が視界を包む。
異世界へ飛び立つはずが、これでは……。
――俺は異世界へ、沈められた……!
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