表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/304

7話 裏切御免5





 突然、俺の前で片膝を地につけたイマシエル。


「ロース様、今こそ任務完遂の時です!」


 怪しげな笑みから一変し、自信に満ちあふれた達成感のある表情を浮かばせ、俺をジッと見つめてくる。


「あぁ……は?」


 そんなイマシエルの謎めいた報告により、俺は脳内を困惑に染められた。


「このイマシエル。ロース様のご計画通り、勇者パーティへの溶け込みに成功。

 そして今、魔王軍への帰還を果たすと共に、勇者パーティの均衡きんこうを崩して見せました。これにて、任務は完遂となります。

 それも、こんなに沢山の敵物資を手土産てみやげに持ち帰るおまけ付きで。ご覧ください、この豊富なラインナップ!」


 意気揚々と、カバンの中を見せてくるイマシエル。


「………………えっと、お前誰だ?」


「何をおっしゃいます! イマシエルですよ、潜入官のイマシエルです。

 先日ロース様の復活をこの目で確認し、任務のフィナーレをかざるとすれば、今日がベストだとさとりました。

 先日からの記憶喪失は、敵をあざむくための設定でしたのでしょ? 潜入官顔負けの演技力でありました!」


「そんな設定も演技も知らん。だからお前の事など冗談抜きで知らないが……。デュヴェルコードよ、お前なら分かるか?」


 俺は表情を変えず見つめてくるイマシエルから視線を切り、デュヴェルコードに助言を求めた。

 演技も何も、転生してきた俺に面識があるわけがないが……。


「さぁ……そもそも魔王軍に人族なんておりませんし、人族と共闘するほど落ちぶれてもいませんから」


「だよな。側近であるお前が知らないのなら、誰も知らないだろう」


「そ、そんなっ! 極秘任務だったため、その娘っ子が知らないのは仕方ありませんが。ロース様がお忘れになられるなんて、信じられ……そうだっ!

 このイマシエルの素顔さえご覧になれば、きっと……!」


 イマシエルは語尾を弱めながら、自らの顔を両手でおおった。

 そしてかさず、隠した顔を露わにし。


「これならいかがです!? 魔王軍唯一の潜入官、ドッペルゲンガーのイマシエルです!

 素顔の方が素敵だと、ロース様はこのイマシエルにおっしゃいました。さすがにロース様も思い出して……」


「こ、怖っ!」


 俺はイマシエルの説明をさえぎり、思わず声を荒げる。


「………………こ、怖い……?」


「怖いわ! 手を退けた途端に顔が変わって……いや、消えてみろ! 普通にホラーだから! なんだよその、逆いないいないバーは!

 余計に誰か分からんわ!」


 明かされたその素顔にはパーツがなく、まるで妖怪のっぺらぼうだった。

 ドッペルゲンガーという魔族は、その何もない顔をいろどる事で、変装できる能力を持っているのだろうか……?


「わたくしも驚きました。まさかこんなに特徴がない顔をした魔族がいたとは……。

 特徴がないと言うより、むしろ何もないので逆に特徴的ですが」


「ドッペルゲンガー……フフッ。まるで顔面プレーンですわね」


「おいレアコード。誰もコイツを知らなかった上に、プレーンって表現はやめてやれ……!

 余計に何もなく思えてくる」


 無情なあだ名をつけるレアコードに、俺は首だけを振り向かせ冷ややかな視線を送った。


 その時……。



「――信じてたのに、ロース様、信じてたのに……!」


 イマシエルは顔をうつむかせ、その場にスッと立ち上がった。


にくき人族の中にたったひとりでもぐり込み、ロース様を信じてこの日を待ちびたと言うのに……!」


「お、おい落ち着け。本当に以前の私が任務を与えた魔族であるなら、少し話を……」


「以前はこの素顔を素敵と言っていたのに、急に手のひらかえして怖いって……!」


 俺の言葉に耳を傾ける事なく、ボソボソとなげくイマシエル。


「ねぇ、顔面プレーン。それどうやって喋っているのかしら? 口もないのに」


「よ、よせレアコード……! 無駄にあおるな。怒ったらどうするんだ」


「ロース様。いやっ、ロース……! この表情を目にしながら、とっくに怒り通り越している事が分からない……?」


 イマシエルはカバンを背負い直し、俺たちに背を向け杖を握り締めた。

 表情も何も、顔に何もなさすぎて無表情ですらないのだが……!


 俺たちの間に、重苦しい雰囲気が生まれた。


 次の瞬間。


「――ハハッ! おい、そこの裏切り者!

 それがテメェの素顔か? オレは今の顔の方が好きだぞ!」


 ンーディオの放った褒詞ほうしが、玉座の間いっぱいに響き渡った。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ