7話 裏切御免3
俺たちは正門前にいたゴブリンから、勇者パーティの行方を聞き出した。
「ロース様、今はこのゴブリンの情報を信じて、敵さんの跡を追いましょう」
「そうだな、ただちに玉座の間へと向かう」
「フハハッ……! 腕が疼いてきた。城内でしたら、我も全力を出せますな」
変わらず日の光対策として、マントを頭の上に広げ続けるコジルド。
「玉座の間へ向かう前に、コジルドよ。お前に頼みたい事がある」
「ロース様のご命令とあらば! 支援魔法をご所望ですかな? それとも我に、獣のように暴れろと?」
「いや違う。お前は玉座の間に入らず、身を潜めておけ」
「なっ……!」
俺の出した指示に、コジルドはギョッと目を見開き固まった。
「戦力外通告ね、お疲れー」
「そそそっ、そんな! 我だって戦いますぞ!」
「コジルドさん、まるでドキュメンタリーですね。わたくしたちの行く末を、見守っていてください」
「あぁ、マイノリティ……! これではまるで、今の我は……のけもの、のけもの……」
コジルドはマントをキープしたまま、途方に暮れたように遠くを見つめる。
「それは……『除け者の、獣』と言いたいのか? 区切る所がおかしいぞ。
心配しなくても、これはあくまで作戦の一環だ。ちゃんとお前にも働いてもらう」
「と、申しますと?」
「コジルドよ、お前は隠し球だ。恐らくンーディオは、お前の復活をまだ知らない。
密かに身を潜め、好機に備えて欲しいのだ。場合によっては、魔王軍の切り札となり得るかもしれん」
俺は励ますように、生気の抜けたコジルドの肩をポンポンと叩く。
するとコジルドは、徐々に不敵な笑みを浮かべ……。
「フハ、フハハッ、アジェンダ……! ロース様、素晴らしき策略。この我にしか務まらぬ、最重要ポジションですな!
漆黒の闇に、紛れるとしよう……!」
背中を大きく反らせ、天に向け高らかに笑い声を上げたコジルド。
どうやら無事に、闘志を取り戻してくれたようだ。背中を反らせすぎて、思いっきり日の光を浴びているが……。
「あ、相変わらず痛々しいヤツだが、頼りにしているからな。
では玉座の間に向かうぞ。デュヴェルコードよ、『テレポート』を頼む」
「かしこまりました。わたくしの手をお取りください」
俺たちは一斉に、デュヴェルコードの差し出した手に掴まり。
「『テレポート』!」
一瞬にして、玉座の間に通じる廊下へと移動した。
しかし到着するなり、俺はある事に気がつく。
「扉が閉められている……。先ほど玉座の間を離れた時、確か開いていなかったか?」
「恐らく敵さんが既に到着し、扉を閉めたのでしょう。
玉座の間って、ジッと待つには肌寒い場所ですし」
納得するように、その場でひとり頷く経験者のデュヴェルコード。
「できればトラップなどの警戒に、意識を向けて欲しいところだが……まぁ良い」
俺は静かに数歩ほど前に進み、皆の方へと振り返った。
「気を引き締めるぞ。前回のような作戦はないが、今回もお前たちの力を信じている。
新たな戦力にも期待しているからな、隠し球役を頼むぞコジルド。
デュヴェルコードとレアコードは、私と共に玉座の間へ入る。いいな!」
「「「かしこまりました」」」
皆の返事を聞き入れ、俺は玉座の間へと歩き出す。
そして扉の前で足を止め、背後にふたりの立ち止まる気配を感じた瞬間。
――バンッ……!
勢いよく、扉を両手で押し開いた。
玉座の間を露わにした入口から見えた光景は……。
「ハハッ! 遅かったじゃねぇか魔王。待ちくたびれたぜ。
威勢のいい登場だが、オレを倒しにでも来たのか!? 調子こきやがってよ!」
座面に片足を乗せ、堂々と椅子に腰をかけるンーディオが待っていた。
「調子こいているのはお前だろ。玉座の椅子に、なんてガラの悪い座り方してんだ。それでも勇者か……!」
ここは最終エリア、玉座の間。
俺はこの状況に、疑念を抱いた。
アニメやゲームで目にする場面なら、普通は立ち位置が逆のはず。
魔王城の玉座で、勇者が待ち構えてどうする……!
――傍から見ると、立ち位置的に俺が挑戦者みたいじゃないか。魔王なのに……!