7話 裏切御免2
俺の背後から、出陣を拒否してきたコジルド。
予想外の拒絶に、俺は思わず後ろを振り返る。
「行かないなら、あんたは留守番していれば? コジった反抗期ボッチは放っておきましょ」
冷たく遇らい、大扉へと歩き出したレアコード。
その跡を追うように、デュヴェルコードも黙って歩き出した。
「どういう事だコジルド。つい先ほど、戦力に数えると伝えたばかりだろ。
置き去りにされて、はぶてているのか?」
「ち、違いますぞ。ロース様、外をご覧ください。日の光が……!
むしろつい先ほど、弱点になり得るから死に際を語れと、ロース様が申されたはずですぞ」
そう言えば、日の光はヴァンパイアの弱点だった。
「我にとってのアウェーなフィールドに、我を誘うおつもりですかな!?
死にに行くようなものです。これではレアコードの置き去りよりも、遥かに残酷ですぞ。
やはり『死のフラット』の件を、根に持たれておられるのか……」
コジルドはマントで体を隠し、目に涙を滲ませ悲しげな視線を送ってきた。
「変に考えすぎだ。お前の弱点を忘れていただけだから、戦いの前にメソメソするな」
「そうですよコジルドさん、ウジウジ考えすぎです。
昏睡前の記憶を失くされる程のロース様ですよ? 忘れっぽいだけですって」
俺に便乗するように、コジルドを慰めるデュヴェルコード。
慰めがてらに、魔王をイジるなロリエルフ……!
「………………そうであるな、我の考えすぎであった」
お前もそこで納得するな、厨二野郎……!
「ご、誤解が解けて何よりだが……。どの道コジルドはここで待機していろ。不利な環境では、ろくに戦えないだろ」
「ご心配には及びませんぞ、ロース様。たった今、パーフェクトな打開策を思いつきましてな……!」
コジルドは腰を低く落とし、マントの裾を槍に固定し始める。
そのまま両手で頭の上にマントを広げ、即席のサンシェードを作った。
まるで、絶対焼けたくない日焼け防止グッズじゃないか。
大切なマントと愛槍じゃなかったのかよ……!
「そんな格好では、更にどの道戦えないだろうが……。まぁ足を引っ張らない程度に、好きにしてくれ……」
俺は見窄らしい日よけマントに呆れながら、正門の方へと振り返った。
だがそこには。
「………………敵は?」
正門前に、勇者パーティの姿はなかった。
視認できたのは、破壊された正門。加えて、謎にデッキブラシで地面を掃除する、1体のゴブリン。
「敵さんの姿は見えませんね」
「それもそうだが、あのゴブリンは何をやっている……?」
「まったくですな。強敵の襲撃時だと言うのに、何を呑気に掃除など。
あの愚者に話を聞くべきですな」
そう言うお前は、呑気にUV対策しているけどな……!
俺たちはゴブリンに話を聞くべく、正門前へと向かった。
「おい、そこのゴブリン。この非常時に何をしている?」
「これはこれはロース様、わざわざご足労を。自分は持ち場である正門前を、定期清掃しております」
俺が話しかけるなりゴブリンは掃除の手を止め、深く頭を下げてきた。
「定期清掃って……。疑うほどの無神経っぷりだな。それより、お前に話がある」
「ロース様ほどのお方が自分に!? お、お話頑張ります。
まさかロース様のようなカッコいいお方に、対話を望まれる日が来るとは」
「世辞はいいから、速やかに答えなさい。勇者パーティはどこかしら?」
俺から目線を切り、ゴブリンはレアコードの方へと向きを変えた。
「さすがの洞察力です、レアコード様。いとも容易くお世辞だと見抜かれるとは。
勇者パーティでしたら、玉座の間に向かうと叫び散らしておりました」
「だそうですよ、ロース様」
「………………その『だそうですよ』って、お世辞だった事実の念押しじゃないよな? 勇者の行き先だよな?」
俺はドライな様子のレアコードに、顔を引き攣らせる。
「それと、余談かもしれませんが……。勇者パーティの中に、ひとり不敵に笑みを浮かべる不審な輩がおりました。
その怪しい笑みの奥に、何を企んでいるのかは分かりませんが。どうかお気をつけて」
俺は怪しげな情報を耳にし、チラリとだけゴブリンに視線を向けた……。