7話 裏切御免1
城内に流れた死亡フラグ臭い放送が、俺の魂を凍らせた。
――俺、今日死ぬのか……?
「デュヴェルコードよ」
「はい、いかがなさいました?」
「今回の放送は、過去最悪だ……!」
俺はイラ立ち気味なデュヴェルコードに、重苦しい声で今回の感想を述べる。
命に関わる役立たずなスキル取得に加え、追い討ちをかけるような謎のフラグ放送。
重なるふたつの惨事に、不吉な予感が俺の脳裏を過る。
「本当に、なんて不吉で傍迷惑な放送をしてくれたんだ」
「わたくしも同感です。こんなパカげた放送、許せません……!」
依然としてイラ立ち気味な様子で、俺に賛同してきたデュヴェルコード。
「だ、大丈夫かデュヴェルコード。なんだか私より、カッカしているように感じ取れるが」
「お気になさらないでください。これは、わたくしの問題ですので……!」
いや、これは俺の問題だと思うが……。
なんだかレアコードの復活前にも、似たような様子を見せていた気がする。
「また放送の変更を指示しておいてくれ。まともな放送にだぞ……!
それよりも、今は勇者パーティの件が優先だ。
コジルドよ。言うまでもないと思うが、お前を即戦力として数えさせてもらうからな」
「無論ですぞ。ヤツらは我にとっての恨むべき敵。
リベンジと洒落込みますかな」
「あぁ、頼らせてもらうぞ。ちなみにだが、お前はなぜ敗れたのだ?
弱点になり得る案件なゆえ、先に聞いておこう」
「………………ラ、ライバルに……」
「ん? ライバル?」
気まずそうに顔を俯かせたコジルドを前に、俺は首を傾げた。
「我の実力を見込まれ、『敵ながら良きライバルとして正々堂々と戦わないか?』と、勇者に握手を求められましてな……」
「おい、まさか……!」
「はい。ライバルなど言われた事もなかったゆえ、気を許し手を差し出した途端……。『テレポート』で野外に瞬間移動され、眩しい日の光に晒されたのです。
そして我が弱体化した隙に、シルバーソードでグサリッと……。後はそのまま、袋叩きにあったと言うわけです。
我はなんと愚かな……!」
レアコードと同様に、自身の死に際を語りながら、俯く角度を深くしていったコジルド。
「いや、愚かすぎるだろ……!
お前の性格まで、完全攻略されているじゃないか」
やはり嫌われ者だけあって、敵相手でもチョロいな。
どいつもこいつも騙し討ちばかりされて、うちのエリアボスたちは大丈夫か……?
「コジルド……今回は敵の口車に乗るなよ。
なんだか気が抜ける死に際を聞いてしまったが……気を取り直し、正門へ向かうとするぞ」
「そうと決まればロース様。今回はあたくしが『テレポート』を使いますわ。
あたくしの手を取ってもらえるかしら」
レアコードは提案と共に、両手を左右に大きく広げる。
俺たち3人はその提案に従い、各自レアコードの側に近づき手を取った。
「準備はいいですわね。『テレポート』……!」
レアコードが詠唱した途端、足元に魔法陣が出現。
足元で発光する眩い光が、俺たち4人を包み込んだ。
その時。
「――フンッ……!」
なぜか鼻で笑ったレアコード。
その瞬間、俺たちは城内大扉の前へと瞬間移動した。
しかしその場には……。
「おいレアコード。ひとり足りないぞ……!」
「フフッ、さぁなんの事でしょう」
その場には、コジルドの姿だけがなかった……。
そして少しの間をおき、俺たちの前にコジルドが瞬間移動で姿を現した。
「レアコードォーー!! 貴様はどこまで我を愚弄すれば気が済むのだ!
移動直前に、我の手を振り解きよって! 取り残されたではないか!」
「いちいち騒がないで。ほんのわざとよ」
怒鳴り散らすコジルドに向け、冷めた視線を送るレアコード。
ほんのって……振り解いたら、ガッツリわざとだろ……!
「コジルドさんもレア姉も、言い合いは止めてください。敵さんは大扉の向こうですよ」
「デュヴェルコードの言う通りだ。ふたりとも、今は勇者との戦いに集中しろ」
俺はいがみ合うふたりに注意を促しながら、大扉の前へと歩みを寄せた。
そして辿り着くと同時に、分厚い2枚の扉を両手で豪快に押し開いた。
――バンッ……!
大扉の開放と共に、空から太陽の光が差し込む。
「役立たずスキルも、フラグじみた放送も関係ない。
今日も勝利を収める……。お前たち、行くぞ!」
俺は皆に背を向けたまま、出陣の号令をかけた。
だが……。
「行きませぬっ!!」
突然背後から、コジルドに激しく拒否された……!