6話 十字独善13
俺は胸元に、デュヴェルコードの拳を食らった。
それも……虫も殺せないような、可愛らしいお遊戯程度のパンチを。
そんな貧弱パンチを食らった俺の体力は、残りわずかとなり……。
「ハァ、ハァッ……! ど、どういう事だ!?」
一瞬にして、虫の息になっていた。
「まさか、ロース様がお気づきでないとは。ちょっと意外でした。
あっ、痛烈なパンチのお詫びに、『ヒール』、『ヒール』……」
「き、気づいていないだと……? 私は何か見落として……いや、そよりもだ。
今の超強力なお子様パンチはなんだ! 体力を奪い取る魔法でも付与した一撃か!?」
俺は両膝に手をつき、回復魔法をかけるデュヴェルコードへ真っ直ぐ視線を向けた。
「わたくしは何も、特殊な事は致しておりません。特殊になられたのは、ロース様の方です。
わたくしはただお子様パンチを……って、何がお子様パンチですか! せめて美少女パンチとおっしゃ……やっぱりどっちも嫌です! プンスカッ!」
頬を膨らませ、可愛らしくそっぽを向いたデュヴェルコード。
この子は怒りながら、こんなにノリツッコミを連発できるのか……!
「私が特殊に? まさか『プレンティ・オブ・ガッツ』が絡んでいるのか?」
「その通りですわ。必死の攻撃を耐え凌ぐ代償に、様々な欠点も持ち合わせたスキルです。
フフッ、まさか何も知らずに取得されたのかしら?」
そっぽを向いたデュヴェルコードに代わり、レアコードが返答してきた。
レアコードの言う、様々な欠点とは……!
嫌な予感が脳裏を過った俺は、皆に背を向け『オブテイン・キー』を取り出し。
「そんな欠点、説明文にあったか……?」
コソコソとスキルの説明文を読み返してみた。
すると……。
「まさか、これの事か……?」
俺は説明文の中から、気になる言い回しを見つけた。
もしも俺の解釈と予想が正しければ、このスキルは。
「カススキルじゃないか……!」
俺が気になった一文、それは。
『一撃必殺であろうと、どんな攻撃を受けても体力は残り1となり、即死を免れる事が可能となる』
――どんな攻撃を受けても。
俺は背中を丸め、固まった。
つまり一撃必殺であろうとなかろうと、攻撃を受けた時点で体力が残りわずかになるスキル、という事か……?
例えその攻撃が、ロリエルフの放つ貧弱パンチだとしても……!
確かにマニアックと言われても、不思議じゃないスキルだ。
「何この、頑丈でデリケートな体力。極端すぎるだろ……!」
オレは力なく呟き、『オブテイン・キー』をポケットに戻した。
「どうしたのかしらロース様。背中から不安がだだ漏れですわよ。
おしゃべりな背中です事」
「なんでもない。デュヴェルコードの一撃で、全てを悟っただけだ。
下手をすれば、ゴブリンにすら負ける可能性があるな……」
「ご心配には及びませんよロース様。やられる前にやればいい、至極当然な事です!
そのお気の毒スキルは、言わば保険だと思って元気を出しましょう!」
「フハハッ! この小さき者の言う通りですぞ、ロース様。
すなわち攻撃を受けさえしなければ、お気の毒スキルも無縁のまやかしと化しますぞ!」
「………………お前ら、お気の毒スキル言うな……!」
デリカシーのない慰めに、俺はグッと拳を握り締めた。
その時。
『――城内放送の時間です。今話題のホットなニュースをお伝えします。
………………勇者パーティが正門を破り、城内に侵入しました! 戦える者は、ただちに正門へ急行してください!
私……! この戦いでロース様が勝利したら、ロース様に告白するんだっ……!』
いつもの間抜けた放送が、城内に流れた。
それも、俺を名指した死亡フラグらしきひと言を添えて。
誰かは知らないが、なんて傍迷惑な宣言してんだ……!
「まさかこの戦いで、死んだりしないよな……?」
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