6話 十字独善12
「暴露……だと? わ、我には何の事やら……」
レアコードに前髪を掴まれたまま、声を震わせるコジルド。
「どうしたのよ、怯えた声なんて出して。フフッ、心当たりでもあるのかしら?」
「み、身に覚えがないと申しておろうに!
腹パン食らってから無意識のうちに暴走し、愛槍を振るったとしか覚えておらん。なんならいっそ、愛槍の方が暴走した可能性も!
いやぁ、まったく。やんちゃな愛槍……いや、やんちゃな相棒で困った困った」
やんちゃな相棒ってなんだよ、やんちゃなのはお前だろ……!
「棒っきれの事じゃないわよ。武器に罪を擦りつけるなんて最低ね。
不自然にモクモクと舞っていた、アレの事に決まっているじゃない……!」
レアコードは掴んだ前髪を、ぐりぐりと左右に揺らす。
「いいいっ痛い! 物理的にも精神的にも、いろいろ痛い!」
「フフッ、精神的にも? もはや自分で痛いって認めているのかしら」
「ロース様っ、耳を傾けてはなりませんぞ!
つい惑わされるほどの美貌ですが、これは悪魔の囁き……いや、チクリです! こやつの語る真実を、信じてはなりませんぞ!」
顔を真っ赤にして訴えかけてくるコジルド。
惑わしているのもお前だろ。挙句に自分で真実と言い切っているし……!
「もういい、離してやれレアコード。罪滅ぼしなら必要ない。その真実とやらは、お前たちの胸にしまっておけ」
「残念……。ロース様がそうおっしゃるのなら」
俺の指示を聞き入れたのか、レアコードは静かにコジルドの前髪から手を離した。
「コジルドが知られたくないと望むのなら、私も知りたくない。
それが同胞であり、仲間の思いやりと言うものだろ。同じ魔族同士で貶し合っても、何も生まれないと思うぞ」
「ロース様……先のお言葉、カッコいいですな……!」
「………………お前にカッコいいと言われると、なんだか不安になるのだが」
俺はこの場を収めるため、あえて知らないフリをしたが……。
――俺は気づいていた。
レアコードが明かそうとした、コジルドの知られたくない真実。
それは恐らく、アレの事だろう……。
コジルドが壁に体を打ち付け、周辺に土煙りが舞った時。不自然なほど、土煙りは長時間に亘り舞い続けていた。
そしてコジルドは立ち上がり、マントを脱ぎ捨てると共に、土煙りをド派手に振り払った。
拗らせたヤツなら、きっと大好物なシチュエーションだろう……!
――俺は気づいていた。
土煙りの中、コジルドが立ち上がる直前に聞こえてきた、微かな魔法の詠唱……。
それはコジルドが唱えた煙幕魔法、『クリエイト・スモーク』。
つまりコジルドは意図的に土煙りを生成し、不穏な雰囲気を演出した上で、自ら土煙りを振り払った事になる。
雰囲気を偽装してでも、あの場でカッコよく激昂したかったのだろう。思いっきりバレていたが……。
この事はコジルドのためにも、知らないフリをしておこう。
もしも俺だったら……。こんな痛々しい醜態を暴露されたら、きっと恥ずかしさで死にそうになると思うし……!
想像しただけでも、身震いが生じる。
「ロース様、いかがなさいました? ぼんやりとコジルドさんを見つめられて」
「あ、いや……気にしないでくれ。
それより、先ほどの回復は助かったぞデュヴェルコード」
「責務を全うしただけです。わたくしの魔力が続く限り、何度でも回復を致します。
ですがロース様。既にご察しの事とは思いますが、念のためにご忠告を」
「ん? なんの忠告だ」
「くれぐれも他人の怒りを買われないよう、お願い致します。それが例え雑魚相手であろうと……命に関わってはいけませんので。
相手の反感を買って、逃げ回るロース様のお姿など見たくありませんから」
「ど、どういう事だ……? 不用意に問題を起こしたりはしないが、雑魚相手に逃げ回るだと?」
突然告げられた忠告に、俺は苦い顔で首を傾げた。
するとデュヴェルコードは俺に近づき、小さな拳を握り締め……。
――ポカッ……!
俺の胸元に、可愛らしいパンチを打った。
すると……!
「ぐぅあぁーーっ!!」
痛みすら感じない貧弱なパンチに、俺は謎のダメージを受けた。
「ハァ、ハァッ。えっ、えっ……! なぜだ……!?」
――貧弱なパンチを受けた途端。
回復して間もない俺の体力が、残りわずかになったのを感じた……!