1話 天界展開5
「『転生トクテン』って。その前に、いつ異世界行きが決まったんです?
俺は行くなんてひと言も……!」
半ば強引に話を進めるエリシアに、俺は意を唱えた。
「何よ、怖気づいたの? 女神を冒涜した上に、転生拒否?
行かないなら、さっきの赦しを撤回。魂消滅させます! さぁ、選んで。『イセテン』か『タマショウ』か!」
エリシアは両腕を組み、急かすようにジッとこちらを凝視してくる。
なんだこの、一択しかない二択は。ただの職権乱用じゃないか……!
「強引ですね……。選択肢だけ聞いたら、まだジャッジメント・デーモンさんの方が親切に思えますよ」
俺の発言に聞く耳も持たず、エリシアは目つきを変えぬまま、無言の圧力をかけ続けてくる。
「分かりましたよ。言わされてる感しかないですが、行きま……」
「そう言うと思ったわ! 私の予想通り!」
俺の返答を遮る、ご満悦なエリシア。
「…………筋書き通りの間違えじゃ……。それで、さっき話に出た『転生トクテン』って」
「もちろん、授けるわよ。いくら小競り合い程度の争いでも、丸腰で転生したら即死確実だもの。
では、覚悟はよろしいでしょうか? 流崎亮さん、あなたに『転生トクテン』を授けます。そのトクテンは……!」
ゆっくり、ゆっくりと……目を瞑ったエリシア。俺へと片手を差し伸べ、見えない何かを渡すように、手のひらをソッと広げた。
同時に、上空から差し込み始めた煌びやかな光が、静寂なエリシアを包み込んでいく。
――思わず手を取りたくなる……。
そんな気品に満ちた佇まいと、差し伸べられた美しい手のひら。
俺は、類を見ない神々しさに、自然と目を奪われていた。
これが本当に、先ほどまで女神ジョークなどと悪乗りをしていた、オチャラケ女神なのかと疑うほどに……!
俺が見惚れていた矢先。エリシアは手を差し伸べたまま、ゆっくりと目を開いた。
そして……。
「あなたに授ける『転生トクテン』は……。
1000ポイントです。大切に使ってね」
「…………………………はい?」
ポイント……? これはまだ、女神ジョークが続いているのか……?
俺の困惑をよそに、美々しい微笑みを保つエリシア。
「トクテンって、そっち!? 得る点の方!? 普通、この流れで貰えるのって特別恩典の特典じゃないの!?
あんな神々しい光まで浴びておいて、点数の付与かよ! 俺はポイントカードか!」
静けさの漂う真っ赤な空間に、俺の張り上げた声が木霊する。
遠のく声がかき消えたところで、エリシアがある物を差し出してきた。
「何を勘違いして騒いでいるのか知らないけど、これが正式なトクテンだから。
はい、ポイントカード」
「挙句に現物の登場ですか……! こんなカード1枚で、世界を救えと?」
俺はカードを受け取り、パタパタと扇いでみせる。
「ちょっと! 神聖なカードを雑に扱うんじゃないわよ、罰当たりねっ!
魔剣を授かるより、ずっとマシでしょうが!」
「いやっ……なら魔剣くださいよ! このカードで敵を切れと? 領収くらいしか切れねぇよ!」
「これだから、イセテン素人は……!
いいわよ。そこまで言うのなら、実演を交えて説明してあげる。このポイントが、どれだけ有り難く凄いトクテンか。
ほらっ、カードを構えて」
エリシアは、カードを持つ俺の手を握り締めた。強引に俺の手を手繰り寄せ、ふたりの中央へとカードを牽引していく。
すると……。
「えっ……! 文字が、ジワジワと……!」
突然、カードの表面に文字が浮かび上がり、文脈を築き始めた。
「――おい、これマジかよっ……!」