表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/304

6話 十字独善8





「ロース様。お手合わせの前に、支援しえん魔法をかけてもよろしいですかな?

 さすがに防備対策をしておかねば、生身ではクタバってしまう恐れが」


 痛々しいポーズを維持したまま、防御力の強化を提案してきたコジルド。

 やはりこの体に備わった剛腕は、誰にでも一目いちもく置かれる脅威のようだ。


「よかろう、許可する。訓練で命を落としては、シャレにならんからな」


「かたじけぬ。では……デュヴェルコード!

 支援魔法を所望する。ありったけのを頼むぞ、小さき者よ!」


 コジルドはデュヴェルコードに向け、ビシッと小指を差す。

 そして透かさず小指を折り畳み、人差し指を向けた。


「えっ? わたくしが?」


「そんな事する必要ないわ、デュヴェル。…………ねぇコジルド。他人ひとに頼ってないで、自分でやりなさいよ。

 この、ひとりボッチ。魔力にまで嫌われるわよ」


 デュヴェルコードをかばいつつ、コジルドに冷たい視線を放つレアコード。

 相変わらず、コジルドに厳しく冷たい罵倒だな……。


「フ、フハハッ……! よかろう、我自ら魔法を振る舞おう」


 気まずげに笑みを浮かべながら、コジルドは片手を天井へとかざした。

 デュヴェルコードに頼らざるを得ない魔法かと思ったが、自分でも唱えられるのかよ。

 構ってほしかったのだろうか……?


 少しの間をおき、コジルドは上げた片手をゆっくりと……俺に向け変え……!


「ロース様、動かれぬように。『マジック・リーンフォースメント』……!」


「はっ!?」


 俺に、支援魔法をかけた。


 頭上に出現した魔法陣から、俺の頭や肩に粉雪のような光が優しく舞い降りてくる。

 それはまるで、ほどこしを与える希望の光のように、キラキラと……。


 クタバってはいけないって、俺の心配かよ! この、厨二野郎……!


「ロース様に、魔法耐性を付与させましたぞ。基本的にはロース様のお得意な近距離戦を致しますが、よりリアルを追求すべく、たまに魔法も使わせていただきます」


「あ、ありがとう……。いらん気を使わせたな」


 本当に、いらん気を……!


「ロース様の()()()()()も整いましたし……。さぁ、存分にたわむれましょうぞ!

 どこからでも、かかって来られよ! ロース様のターンですぞ!」


 マントと両手を大きく広げたコジルド。


 そんな一切いっさいこばもうとしないコジルドの姿を前に……。

 モヤモヤと湧き上がってくる少しのイラ立ちから、俺の拳にグッと力が入る。


「お肉の下味をつけるみたいに言いやがって……!

 遠慮なく……。いかせてもらうぞっ!」


 俺は棒立ちの体勢から力強く地面を蹴り、コジルドを目掛け勢いよく飛び出した。

 棺の並んだ細い通路を直進し、軽快にコジルドとの距離を詰めていく。


 そして、右腕を振りかぶり。


「歯食いしばれよ、コジルド!」


「フハハッ! モーションが大きいですぞ!」


 コジルドは高らかに笑い声を上げ、バックステップで俺から距離をとる。


 俺は狙いを定めたまま、後方へと退避するコジルドの跡を追い、一気に距離を詰めた。


 双方の間合いに入った、次の瞬間。


「いけるっ……!」


 俺は助走の勢いそのまま、コジルドの顔面を目掛けこぶしを真っ直ぐに突き出した。


 ――フッ……!


 しかし俺の拳はまととらえる事なく……。

 コジルドの横顔をかすめ、空を切った。


け、られた……」


 スピードと重量を乗せた俺の一撃は、コジルドに軽々とかわされた。

 この至近距離で殴打を外したショックから、俺は腕を突き出したまま思わず立ち止まる。


「いとも、容易たやすかったですぞ」


 コジルドは不要なひと言を呟き、伸び切った俺の腕に優しく片手を添えてきた。


「お前っ、あおってんのか……!?」


「ロース様、戦場で怒気を出しては負けですぞ。ドウドウ……」


 添えた片手で、俺の腕をで始めたコジルド。


 どうしよう、グーで殴りたい……!

 実際にグーで殴りかかって、かわされたばかりだが……!


 コイツは無自覚にアドバイスをしているつもりだろうが、こじらせたヤツに言われると煽りにしか捉えられない。


「怒りや焦りに精神を支配されては、すきを生む原因になりますぞ。

 感情に任せモーションを乱せば、容易たやすかわされカウンターを食らうでしょうな」


 俺はイラ立ちを剥き出さないよう顔を引き攣らせながら、静かに右腕を戻す。

 同時に、コジルドは再びバックステップで、俺から距離をとった。


「忠告感謝するぞ、コジルド……!

 お前のお陰で、一撃食らわせたい理由が増えた気がする……!」


「………………なんだかロース様のあしき力より、怒りを引き出してしまった気が。

 とても感謝を告げる表情には見えませぬ。我は……変な事でも申したかな……?」


 言っていない。言ってはいないが……。

 レアコードの言葉を借りて、表現すると。



 ――コジってて、腹立つ……!


 俺は仕切り直すように、頭を傾けポキポキと首を鳴らした。


「次こそ、歯食いしばれ。第2ラウンドだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ