6話 十字独善7
俺は密かに考案していたサブプランを実行すべく、コジルドに戦いを申し出た。
「今、なんと申された……?」
「私と戦えと告げたのだ。この場でもいい、お前と手合わせしたい」
俺が戦いを申し出た理由……。それは実戦を積み、経験値を得るためだ。
今の俺に足りないものは、言うまでもなく実戦の経験。
例え剛腕が備わっていても、敵を前に応用がきかなければ、ただのでくの坊だ。
ンーディオはきっと俺を狙ってくるだろう。そうなれば、対人戦は不可避となる。
そこで、蘇生させたコジルドを相手に、少しでも実戦を積もうと考えた。
本来コジルドの蘇生は、戦力強化を計るためのものだった。だが強者であるのなら、訓練相手として使わない手はない。
「ロース様、いやはや……」
「どうしたコジルドよ。私が相手では生ぬるいか?」
「決してそのような事は。
ただ通常……下克上とは、上の者から率先して提案する事ではないですぞ。
まさか魔王の座をかけて、我にデュエルを申し出られるとは」
「はっ? いや、何を勘違い……」
「ハイリスク、ノーリターンなデュエルをご所望とは、なんとも自虐でマニアックな……。
だがしかしっ! ロース様が魂をおかけになられるのなら、このコジルド! 全身全霊をかけて、ロース様を屠りにかかりますぞっ!」
俺の弁明を遮り、謎に痛々しいポーズをとりながら、ひとり張り切り始めたコジルド。
両腕で中途半端に顔を隠し、隙間から片目をキラつかせてくる。
説明不足だった俺も悪いが、ただの勘違いで勝手に命をかけ始めないでくれ……!
「あんた、察しの悪さまで痛々しいわね。いちいち説明がないと、理解もできないの?
コジルドるのも大概にしなさいよ。
あと、そのポーズ止めて。コジっていて余計に痛いわ」
決めポーズ中のコジルドへ、呆れながら物申すレアコード。
コジルドるって……。ナチュラルに新しい言葉が生まれた……。
「何が『コジルドる』だ! 他人の名前で、変な動詞を作るな小娘!
そこまで戯れ言を叩くのなら、貴様が真意を説明してみせろ!」
「いいわよ、説明してあげる。
あんた如き、雑魚ならこの場で始末して、元の棺に戻してしまおうってご意向よ。
コジっている上に使えない部下なら、ポイッ。
脳筋魔王ならではの、シンプルな品定めプランね」
「なっ! それが誠なら、何ゆえ我を蘇生させたのだ……。暇つぶしだとしても、我に対して残酷な気がしますぞ。
急に無慈悲系魔王な気質を出されても……」
「いやいや、違うから! レアコードよ、お前のコジルドを嫌う私情で、私のプランを憂さ晴らしに利用するな。
コジルドも、そんなイジメ張りの妄言を鵜呑みにするな」
俺はショックを受けた様子のコジルドに、再び向き直り。
「説明不足で悪かった。さすがに復活ホヤホヤのお前を、無惨にも棺に戻そうなどとは考えていない」
「それでしたら安心しましたぞ。では、何ゆえに我とデュエルを?」
「いやだから、命をかける程の重い戦いではないって……!
単なる、私自身の戦闘力アップに繋げるための手合わせだ」
「ほほう、カジュアル……! 詳しくお聞かせを」
コジルドは怪しい笑みを浮かべ、片手でマントを握り半身を隠した。
「あ、うん……。いちいち痛々しいな……。
率直に告げる。今の私に、戦力として数えられるほどの力量はない」
「はい」
謎に横から、いらぬ同意をしてきたデュヴェルコード。
そんな不意の同意に、俺は少し言葉を詰まらせた。
「………………体力などの衰えはなくとも、戦う術を忘れている。
そんな私自身の勘を取り戻し、魔王としての戦闘力を身につけたいのだ」
「ロース様、エクセレンツッ……! 目覚ましき向上心ですな。
しかし、なぜ我をチョイスされました? 何か特別な理由でも?」
「決まっているじゃない。あんたなら、最悪殺めてもいいやって言う、開き直りの選択よ」
再び悪意の感じる口出しで、横槍を入れてくるレアコード。
コイツはさっきから、俺をダシに言いたい放題だな……!
「単純にお前が適任だと感じたからだ、コジルド。引き受けてくれるか?」
一応はデュヴェルコードたちにも、頼む事を考えた。
だがデュヴェルコードの場合、戦闘スタイルが魔法ばかりで、俺の訓練相手には不向きだと感じた。
それに、こんな小さな体に殴打を食らわせたりしたら、ポッキリいきそうだし……!
レアコードに関しては、冷酷にも容赦なく攻撃してきそうだ。そうなれば訓練ではなく、ただの死活問題になり兼ねない。
終いには部下相手に、命乞いしそうだし……!
それらの理由から、消去法でコジルドを選んだのだが……。
「フッ……フハハッ! フハハハハッ!
ご指名ありがとう。我が身を持って、引き出して差し上げましょう!
ロース様の中に眠る、悪き力とやらを……!」
コジルドはマントを大きく靡かせ、ドヤ顔の上目遣いでゆっくりと前髪を掻き上げた。
――コイツは嫌われ者だけあって、頼られる事が嬉しいのか……。
そこそこ、チョロいな……!