6話 十字独善4
俺は次なるプランの先立てとして、蘇生対象の候補者をふたりから聞き出した。
「たとえ好かれ者でなくても、同じ魔族であり、命をかけて戦い散っていった同胞だ。
私はそのヴァンパイアを、期待の戦力として蘇生させたい。強者であるなら、尚更にだ」
「ロース様がおっしゃるのなら、そのご意向に従いますわ」
「わたくしもです」
俺はふたりの了承を得るなり、椅子からスッと立ち上がった。
「決まりだな。では、すぐにでも行動を起こそう。
デュヴェルコードよ、蘇生は任せたぞ」
「お任せください。では棺エリアに移動致しましょう。
そうと決まれば……」
語尾を弱めた途端、何やら右手を構えたデュヴェルコード。
その隣でレアコードも、同じように右手を構える。
そして……。
「いきますよー! テレポトジャンケン、ジャンケン、ポイッ!」
「えっ、えっ!?」
突然、デュヴェルコードが謎のジャンケンをコールした。
あまりの突然さに動揺した俺は、流されるまま咄嗟にグーを出し……。
「あのぉ、ロース様は……。『テレポート』使えませんよね……」
ふたりの出したパーに、あっさりと敗北した。
姉妹特有の雰囲気を壊してしまったような、冷たい視線が俺に集中する。
なんだ、この居た堪れないアウェー感は……!
「なぜ……『テレポート』も使えないロース様が、勝手に参加して勝手に負けているのかしら……?
弁えるって言葉、ご存じ?」
「ロース様……。それはちょっと痛いです」
これは、俺が悪いのか……?
確かに後先を考える隙もなく、反射的に参加してしまったが。
前振りもなく、急に始めるなよ。
そもそもこの世界に、ジャンケンが存在していたのか……。
「み、水を差してすまない。お前たちだけで再戦してくれ……」
「失礼致しましたロース様! わたくしも少々、言い過ぎました!
色々とみっともないので、元気を出してください。『テレポトジャンケン』はお預けにして、今回はわたくしがお送りします。
ロース様、レア姉。お手をわたくしに」
アタフタと謝罪をしながら、俺とレアコードに手を差し伸べたデュヴェルコード。
「『色々とみっともない』も、十分に過言だが……。
よ、よろしく頼むぞ」
「空気が重たくなったわね。デュヴェル、よろしく」
俺とレアコードは、差し出された小さな手を軽く握った。そして。
「『テレポート』!」
――デュヴェルコードの詠唱と共に、俺たちは棺の並んだエリアへと瞬間移動した。
薄暗く、どこか不気味な雰囲気を漂わせる棺エリア。
所狭しと配置された無数の棺が、瞬間移動してきた俺たちを出迎える。
「ここは……どんよりとして、重苦しい空間だな」
「当然ですわよ。逆に、ポップでエネルギッシュな棺保管場があるのかしら?
まぁ今のロース様的には、先ほどの救いようのない不始末を引きずって、重苦しいだけかもしれませんけどね」
俺に目もくれず、平然と言ってのけるレアコード。
コイツ、容赦なさすぎないか……?
こんなトゲのある言葉は、初めて言われたぞ……!
しばらくの間、目の前にある棺のひとつにでも閉じこもって、この居た堪れない感情を癒したい気分だ……!
「お前はもう少し、言葉をオブラートに包んだ方がいいぞ……。
それより、例のヴァンパイアを蘇生させるぞ。デュヴェルコードよ、早速やってくれ」
「かしこまりました。ではエリアの中央へ」
デュヴェルコードは先陣を切り、棺を避けながらエリアの中央へと歩き出した。
その後に続き、俺とレアコードもついて歩き出す。
「この辺でいいでしょう。
では、始めます。『リザレクション』……!」
中央で歩みを止めるなり、蘇生魔法を唱えたデュヴェルコード。
エリアの中央に魔法陣が出現し、この薄暗い空間に優しい光が灯った。
しかし……。
「…………失敗か? 誰の姿も現れ始めないが……」
しばらくの間、魔法陣は残存し続けたが、周囲に俺たち以外の人影は現れず。
「おかしいですね。手応えは感じているのですが」
魔法陣は光を弱め、うっすらと消失していった。
その時……!
――ゴトゴトッ……!
突然、俺の足元で物音がした。
「わっ! な、なんだ!?」
反射的に音源へ視線を下げると、そこには1基の棺が配置されていた。
「まさか、この中に……!」
俺は物音の正体を探るべく、腰を落としながら棺の蓋へと両手を伸ばした。