6話 十字独善3
次なるプランを伝えるべく、寝室を後にした俺とデュヴェルコード。
レアコードが待つという玉座の間を目指し、ふたりで長い廊下を進んでいた。
「あの、ロース様……」
「ん? どうしたデュヴェルコードよ」
「まだ……怒ってる?」
「はっ!? と、突然なんだ?
モジモジと聞いてきて、急に乙女モードか!?」
「いえ、その……。かしこまってご機嫌をうかがうより、こっちの方が効果的かと思いまして」
「どんな動機だよ。そもそも、なぜそんな事を聞くのだ?」
「はい。先ほどお話しにあがったロープの件ですが、ロース様の表情がまるで……。犯人は結んだヤツと、言いたげでしたので。
な、内心は怒っているのかなと……」
少し俯き気味に、口調を弱めて理由を明かすデュヴェルコード。
トチ狂った洞察力を持つこの子が、俺の表情から的確に悟ったのか……?
「そうか。不要な気を遣わせたな」
「け、決してそのような事は! ただわたくしは、ロープを結んだ自分が悪いって、どうしても認めたくなくて……!
理不尽に怒られたら、嫌だなって……」
「……………………謝罪じゃないのかよ。ただの自己主張かよ」
やはりこの子は、期待を裏切る天才だった……!
その後、俺たちは特に言葉を交わす事なく、レアコードの待つであろう玉座の間へと辿り着いた。
到着した時、既に扉は開放されており。
「あら、ロース様。ようこそお越しくださいましたわ。何かご用かしら?」
玉座の椅子に堂々と座るレアコードが、手を振ってきた。
「あぁ、少し話があって来たんだ。それより、その椅子はお前の物なのか……?」
軽く要件を伝えながら、俺はレアコードへと近寄る。
するとレアコードは、コッコッとヒール音を鳴らし、エレガントに椅子から立ち上がった。
「フフッ、嫌ですわロース様。この椅子は、魔王であらせられるロース様の椅子です。
あたくしはただ、椅子を温めていただけですわ」
華麗にエスコートするように、俺を椅子へと誘導するレアコード。
温めていただけの割に、片肘をつき足まで組んでいたが……。
モヤモヤと魔王への忠義を疑いながら、俺は誘導されるまま椅子へと腰をかける。
「ふたりとも。まずは昨日の一戦、ご苦労だった。見事な魔法と連携だったぞ」
「ありがとうございます。
ところでロース様。先ほどお話されていたプランとは? 早くお聞きしたいです!」
和やかに質問をしてくるデュヴェルコード。だが、体は小刻みに震えていた。
以前に玉座の間が寒いと話していたが、早めに切り上げたいのだろうか?
どことなく、早口に思えた……。
「お前たちに集まってもらったのは、他でもない。
次なるプランとして、勇者パーティに対抗できるだけの、十分な戦力強化を計りたい。
昨日は勝利で終わったが、勝因は4人まとめて不意打ちにできたからに過ぎない。
しかし今後、敵が分散の対処をとってきた場合、個々の応戦に発展する可能性がある。
そうなれば、恐らく敵に利が傾くだろう」
「遠回しな言い方ですわね。
傾くと言うより、単に1対1の応戦はロース様にとって、分が悪いだけじゃないかしら?」
「レ、レア姉! それは直球すぎますよ!」
手をバタバタと振り、必死に場の雰囲気を抑えようとするデュヴェルコード。
「さすがに鋭いな、レアコード……。まさに、それが真実だ。
魔法もろくに使えない私が、この剛腕だけで通用するはずがない。増してや私の首を狙っているのは、勇者であるンーディオだ」
「それで、どうなさるおつもりかしら。
まさか無謀にも、今から魔法習得のプランでもお立てになるの?」
「いや……。さすがに私でも、それは無謀だと思う。
確実な戦力強化を計るため、またエリアボスを蘇生させる」
「それなら、まだ良案かしら」
少し納得したように、両腕を胸の前で組み、軽く頷いてみせるレアコード。
「よしっ、そこでだ。次に誰を蘇生させるか、お前たちの助言が欲しい。
この魔王城で、レアコードに次ぐ実力者は誰だ? できればその者を蘇生させたい」
俺は椅子に腰をかけたまま身を乗り出し、交互にふたりと目を合わせる。
「つ、次に強い者ですか……?」
「あぁ、強者に越した事はないからな!」
「おるにはおりますが、なんと言うか……。わたくしは少し苦手です」
「あたくしもよ。と言うより、あんなのを好きな魔族がこの城にいるのかしら?」
「…………嫌われ者なのか? 煙たがられ感が凄いな」
「少なくとも、好かれ者でない事は確かです」
「そうね、その証拠に……。部下にも恵まれず、ひとりでエリアを守護していたわ」
それはもはや、いじめレベルだろ……!
どこの世界にも、爪弾きは存在するんだな……。
少しの間をおき、デュヴェルコードは意を決したように1歩前へと出た。
「――その者の名は、コジルド。
棺エリアを守護していた、ヴァンパイアです……!」