6話 十字独善2
俺の悲鳴を聞きつけ、イカれた質問を飛ばしながら駆けつけてきたデュヴェルコード。
「ロース様、どちらに!? お姿が見えませんが、お隠れになって何系の営みを!?
わたくしが少し目を離した隙に、いったいどんな営みを!?」
冷静さを欠いた様子で、デュヴェルコードは辺りをキョロキョロと高速で見回す。
俺はデュヴェルコードの姿を目視できたが、向こうは俺に気がついていないのか……?
転け落ちたこの場所は、ベットで死角になっているのだろうか。それとも単に、慌てて視界が狭くなっているのか。
未だに、辺りをキョロキョロと見回している。
「デュヴェルコードよ、私はベットの裏だ……。あと、何も営んでいないっ」
「裏っ!? そんな如何わしい位置で何を……」
デュヴェルコードはしゃがみ込み…………ベットの床下を覗き始めた。
「そこじゃないって! ベットの下に入るわけないだろ! 私は小動物か!」
俺は身を乗り出し、ベットの上をボフッと叩いた。
「そちらでしたか! アハハッ、気がつきませんでした。それで、ロース様はなぜそちらに?
愛しのベットと添い寝ですか?」
俺は無邪気に微笑むデュヴェルコードを諭すように、足に巻かれたロープを指差す。
「これのせいで、転け落ちたんだが」
「あぁ、はい。わたくしが結んだロープですね。
ロース様が変な体勢でお休みになっておられたので、体勢を直すのに『フロート』をかけ、1度お体を吊り上げました。
そして起こさないよう、ソーッと頭からお体をしならせ下ろしました」
「扱われ方がまるで、油に入れる時のエビ天だな……。
そのロープが未だに結ばれたままだから、私が転け落ちたって気がついていないのか?」
「エビ天……とは何か存じませんが。
なるほど……! ロース様が転け落ちた謎は解けましたね。犯人はロープでしたか」
犯人はお前だろ……!
ここまで仄めかしたのに、無自覚のままロープに濡れ衣を着せやがった。
「真犯人は他にいると思うが、まぁよい。
それより、昨日は本当にご苦労だったな。この場にいないレアコードも含め、改めてよく戦ってくれた。
しかし、あくまで昨日の一戦は序章に過ぎない。返り討ちにあった勇者パーティは、必ずまた攻めに来るはずだ。
もう同じ手は通用しないだろう」
「おっしゃる通りだと思います。しかも敵さんは、この城を完全攻略した猛者集団。
こちらの手の内も、知り尽くしているはずです」
「その想定はした方がいいな。
昨日は不意をつけたから、撃退できたようなもの。真っ向からぶつかれば、今のままでは敵に利が傾くだろう。
そこでだ。これから私の考えたプランを、お前とレアコードに話す。敵に負けないためのプランをな」
「かしこまりました。では玉座の間へ向かいましょう。そこにレア姉がいるはずですので。
その前にロース様、恐れながらひとつ訂正を……。敵さんに負けないためではなく、勝つためのプランです!
あの忌々しくガラの悪いチンピラ勇者に、『ギャァーーフゥーーン』と言わせて差し上げましょう!」
「あ、あぁ……そうだな。ギャフンは絶叫の擬音ではないが」
俺は考え込むように、ふと天井を見上げる。
今思えば、あのンーディオという勇者は……。確かに勇者なのだろうが……。
口も態度も悪く、仲間にも危害を及ぼす破天荒な男。
聖剣を引き摺り歩き、勇者とは思えないほどの物騒な技名を使う輩。
俺が抱いていた勇者像を、悉くぶち壊してくれたチンピラ。
――あの勇者……!
俺なんかより、よっぽど魔族に向いていたな……。