6話 十字独善1
『――なぁ、亮ちん。聞いてくれよ、相談があるんだ……!』
これは……夢だろうか?
前世の親友である蓮池ヒロシの声が、頭の中を過る。
俺はこの相談を聞いた覚えがある……。
『なんだよヒロシ、相談って。トイレに行きたいとかか?』
『それは、もう間に合わないから諦めた。どうせ大の方だし。
そんな事よりさ!』
『そんな事よりじゃないって、それ諦めたらダメなやつ! 今諦めたら、そこそこ人生変わるやつだから! 大の方なら尚更に!』
『オレ……いや、我はさ。一人称、つまり自分の呼び方を変えようと思うんだよ……!』
『俺の忠告、フル無視かよ。その割に奇妙な相談だな……。
しかも相談前から、既に一人称を変えてきているし』
『ごめんって亮ちん。相談紛いに言っておかないと、急に一人称を切り替えたりしたら……。
我が何者かに、憑依されたって勘違いされると思ってさ!』
『心配しなくても、そんな事は思わないから。て言うか、選び抜いた一人称が我かよ。
かなり偉そげな人代名詞だな』
『そう言われると思ってさ、我はちゃんと対策も用意しておいた!
せっかくなら、とことん偉そげを極めようと思って。今後は亮ちん以外の人を、貴様って呼ぶ事に決めた!』
『貴様っ!? ヒロシさ……。貴様なんて口にする人を、実際に見た事ある?
さすがに、アニメやゲームの影響を受けすぎているぞ。親友として頼むが、現実との区別はつけてくれよな。
ヒロシみたいに拗らせたヤツが、世間でなんて呼ばれているか知らないのか?』
『サラブレッド!』
『…………思いの外、飾ってきたな。そう言うところも含めて、拗らせたヤツの事を世間では……!』
――記憶の中にいた俺の言葉を、聞き終わる前に。
俺は、目が覚めた……。
「んん……。夢か……?」
気がついたら俺は、寝室のベットで横になっていた。重たい瞼を上げ、霞む視界にぼんやりと天井が映る。
「あの戦闘の後、俺は寝てしまったのか。
無理もないな……。あんな緊張感、味わった事もなかったし」
俺は冴えきらない目を片手で擦り、その場で上半身を起こす。
「ヒロシのやつ、元気にしているかな。ぶっ飛んだ親友だったけど、また会いたいよ……」
独り言を呟きながら、俺は眠気覚ましにグッと両腕を上げ大きく背伸びした。
背筋に力を込め数秒キープした後、ダラリと両腕を垂らしながら寝室を見渡してみる。
「デュヴェルコードはいないのか。ここで目を覚ます時、大抵あの子が側にいたはずだが。
ちょっと、部屋の外でも探しに……」
俺は寝室を出るため、ベットから立ち上がろうとした。
その時。
――ドテッ……!
「ぎゃふっ……!」
上手く足が動かず、ベットから転げ落ちた。
頭の冴えない最中に起きた、急な落下。
少しの間、俺は思考が追いつかず、無心で床に転げ落ちたままでいた。
「何……。いったい何が……?」
いくら寝起きとはいえ、自分の体を思うように動かせなかった事に疑問を抱き、胸元から下にかけて視線を巡らせてみる。
「ロ、ロープ……」
見ると両足首が、ロープで縛られていた。
まさかとは思うが、これって……!
心当たりを推察していた矢先に、寝室のドアが勢いよく開かれ。
「ロース様! みっともないお声が聞こえてきましたが!
まさか朝からおひとりで、何か営まれていましたか!?
わたくし、お邪魔ですか!?」
犯人と思しきロリエルフが、イカれた質問を叫びながら、慌てて駆け込んできた。
――邪魔じゃないけど、そう思うなら入ってくるなよ……!