5話 爛漫勇者9
――ンーディオたちを閉じ込めた落とし穴から、眩しい光の柱が立ち昇った。
「あれは……。言うまでもなく、生きているよな……?」
「そのようですね。やはり汚い人族に、猛毒は相性が悪かったかしら」
「それは……。たぶん違う」
俺たちは挙って、天にも届きそうな光の柱を見つめる。
「勇者だけあって、一筋縄ではいかないという事か。
しかし、凄いタイミングの良さだったな。まるでデュヴェルコードの発言が、フラグになったように……」
俺はデュヴェルコードに、チラリと視線を向ける。
ポッカリと口を開け、目を点にして光の柱を見つめるデュヴェルコード。
ゆっくりと俺の方に顔を振り向かせ、許してと言わんばかりに、悲しい表情を浮かばせてきた。
どうやら先ほどの失言が、フラグ発言だったと自覚しているようだ……!
「ロッ、ロース様……。部下の失敗は、上司の責任ですよね?
あまり……おひとりで背負い込まれないで……ください……」
終いには、声を震わせ俺に責任を押しつけてきた……!
いらぬ同情まで添えて……。
「そこまでお前の失言を、気にしてはいなかったが。都合のいい決まり文句だな……!
それより、気を引き締めるぞ。また攻撃を仕掛けてくるはずだ」
「はい! まだ魔力にも余裕があります。レア姉も大丈夫ですか?」
「もちろんよ。魔法1発で終わりだなんて、物足りないかしら」
「よし、頼んだぞ。ここからは各自の判断で応戦せよ。何かあれば、随時指示を出す。
互いに気を配り、臨機応変に対処する事を忘れるな」
「「かしこまりました」」
「いざとなったら、このカードで……」
俺はひとり呟きながら、『オブテイン・キー』の端をポケットから覗かせた。
頭の中で使いどころを再認識し、静かにポケットの奥へと戻す。
「ロース様、光の柱が!」
デュヴェルコードの喚起に、俺はすぐさま光の柱へと視線を戻した。
光の柱は徐々に消失し、次第に入口を露わにしていく落とし穴。
光の柱が完全消失したところで、ンーディオが再び姿を現した。
落とし穴から軽快に飛び出し、鮮やかな身のこなしで地面へと着地する。
「コイツは、化け物かよ……! いとも簡単に抜け出してきやがった。
しかも、パーティメンバーを背負った状態で……」
ンーディオの手に聖剣スキャンダルは握られておらず、鞘に納められていた。
その代わりに、背中にはシノを背負い、両腕には残りのメンバーを抱えている。
「ハハッ! 派手にカマしてくれるじゃねぇか魔王!
さすがのオレも、若干だが焦ったぞ」
「勇者だけあってタフだな、ンーディオよ。
いったい、どんな手を使って助かったかは知らないが、お仲間は無事では済まなかったのか? 動けないようだな」
「コイツらに、魔法でシールドを張らせたんだよ。超強力なのをな!
だが脱出するのに、剣技でガレキをぶっ飛ばしてみたら……ハハッ!
衝撃でコイツら、失神しやがった!
まぁシノに関しては、死んだフリかもしれねぇがな。オレでも見抜けねぇから、知らんけど」
なんて無鉄砲な勇者だ。ただの巻き添えじゃないか……!
しかもシノの専売特許である死んだフリを、敵である俺にあっさりとバラしているし……。
「ど、どちらにせよ、パーティの均衡は崩れたようだな。それでも、まだやるか?」
「くたばったコイツら込みじゃ、邪魔で戦えねぇよ。今日のところは引いてやる。
いいか、魔王ロース! テメェを倒すのはオレだ!
なげぇ眠りで熟成されたロースをミンチにできりゃあ、間違いなくオレが歴代最強の勇者として語り継がれる!」
「誰が熟成ロースだ」
「ハハッ! また来るからな。肩でも洗って待っていろよ、魔王! 『テレポート』」
ンーディオは3人を抱えたまま『テレポート』を唱え、一瞬にして姿を消した。
洗って待つのは、首だろ。
なんで肩なんだ? 肩ロースとでも言いたかったのだろうか……。
「ロース様! やりましたね、撃退成功です。
敵さんの半分以上を戦闘不能にし、撃退できた今回の戦果は大きいですっ」
デュヴェルコードは正面から俺に抱きつき、可愛らしく煌びやかな笑顔を上へと向けてきた。
実際のところ、戦闘不能にしたのはンーディオだが……。
今はこの笑顔に免じて、ツッコまない事にしよう。
「そうだな。この魔王城にとっても、大きな進歩かもしれん。この戦果は勝利と呼んでいいだろう。
ふたりとも、ご苦労だったな……」
俺は軽い笑顔を返し、デュヴェルコードの小さな頭をソッと撫でた。
――ンーディオは言っていた……。
今日は挨拶程度だと。そして、また来ると。
再来がいつなのかは分からない。だが、そう遠くない未来に思える。
次は敵も本気で来るだろう。まだまだ備えが必要だ。
俺の戦いは、始まったばかりなのだから……!
「ふたりとも、城内へ戻るぞ。ヤツらの再来に向け、また備え直しだ。
何度でも、返り討ちにしてやるためにな……」
俺はデュヴェルコードをゆっくりと引き剥がし、ひとり勝利の余韻を残しながら、大扉へと振り返る。
「そうですわね、備えておきましょう。また魔王パンチなどと、哀れで惨めな技名を吐かさないためにも」
他人の余韻をぶち壊す、非道なレアコード。
今のは、本当に余計な助言だった……。
――俺たちは城内へと歩き出し、静かに大扉を閉めた。
作品を読んでいただき、ありがとうございます!
「ちょっと面白いかも」「次のページが気になる」と感じましたら、ブックマークやお星様★★★★★を付けていただけますと、大変嬉しいです!
皆様の応援が、作者のモチベーションとなりますので、是非よろしくお願い致します!