5話 爛漫勇者7
ンーディオが腰を低く構えた途端、強い光を放ち始めた聖剣スキャンダル。
このままピカピカと輝くだけで終わるはずがない。
この距離を一瞬で詰めて、斬り込んでくるのか。それともスイングに合わせ、衝撃波を飛ばしてくるのか……。
頭では敵の初手を探っている。だが俺は無意識のうちに、見えないほど小さな後退りをしている事に気がついた。
魔王の風格を意識し意気がってはいるものの、この世界での戦闘経験は、無に等しい。
思考は戦況に向いているが、本能は危機を訴えかけている。
――どうか、これから起こり得る敵の一撃目を、デュヴェルコードに上手く凌いでもらいたい……。
「剣技『アブノーマル・デンジャラス』……!」
「はぇっ……!?」
ンーディオの唱えた技名を聞き、俺は一瞬の戸惑いを覚える。
しかし、ンーディオは俺に構う事なくモーションをかけ、聖剣スキャンダルを振るった。
「来ますっ! ロース様!」
剣身から伝わった眩い光を発する衝撃波が、俺たちを目掛け放たれた。
触れたもの全てを薙ぎ払ってしまいそうな、ド派手な衝撃波。
互いに距離を置いた立ち位置の間を、真っ直ぐ突き進んでくる。
「なんだよ、この剣技! ヤバいって、非常にヤバいって!
デュヴェルコード、ガード!」
「お任せください、『クリスタルウォール』!」
デュヴェルコードが魔法を唱えるなり、ゴツゴツとした鉱物が出現。
俺たちの前にそびえ立ち、見えない裏側で激しい衝撃音を立てた。
「ハハッ! せっかくの挨拶だったのによぉ。受け取ってもらえなかったぜ」
まさに、ギリギリの防衛。
デュヴェルコードの出現させた分厚い結晶石の壁が、目の前まで迫った衝撃波を、間一髪のところでシャットアウトした。
至るところにヒビ割れが生じ、裏側でパラパラと破片が落ちる音がする。
「デュヴェルコードよ、もう大丈夫だろう……」
「はい。邪魔になりますので、消滅させます」
デュヴェルコードが両手をパンッと叩いた途端、分厚い結晶石の壁はチリの如く消滅した。
「ねぇ、ロース様。自ら警戒を促されていた割に、えらく慌てておられましたわね。
フフッ、予想以上に怖かったのかしら?」
「逆に聞くが、なんでお前たちはそんなに涼しそうなんだ……!
だってヤバかっただろ、あの技名! 衝撃波が来るかもって予想はしていたが、『アブノーマル・デンジャラス』だぞ!?
勇者のくせに、なんて物騒な技を使ってんだ!」
「テメェ、魔王! 丸聞こえなんだよ!」
「聞こえるように言ったんだよ!
なんだよ、普通じゃない危険って。デンジャラスの時点で、普通じゃないだろ!
勇者がそんな技名を使っていたら、ビックリするわ! もっと勇者らしい剣技とか使えよ!」
俺は身を乗り出し、ありったけの声量でンーディオに言い返す。
「チッ……! 挨拶程度に1発カマして帰るつもりだったが、気が変わった」
ンーディオは舌打ちをし、鋭い視線を放ちながら聖剣スキャンダルを肩に担ぎ直した。
「なんの気が変わったのだ?」
「決まってんだろ。腕の1本でもへし折ってから、帰る事にしたんだよ。覚悟しな」
「そうか。なら……!」
俺は考える素振りを見せ、両隣にいるふたりの肩にソッと手を添えた。
そして、静かに間を置き……。
「――デュヴェルコード、レアコード! 退却だ!
ただちに城内へ戻るぞ!」
「「はい!」」
俺の号令を機に、俺たち3人は瞬時に大扉へと振り返り、敵に背を向け駆け出した。
「ハァッ!? 逃げてんじゃねぇ、ゴラッ!
おいオメェら、追うぞ!」
チラリと背後の様子を窺うと……。
剣幕なンーディオを筆頭に、4人全員が正門を通過し走り出していた。ひとりも遅れをとる事なく、4人は固まり城壁内に侵入してくる。
――俺は、このタイミングを待っていた……!
「今だっ! 仕掛けるぞ!」
俺の合図と同時に、俺たち3人は一斉に足を止め振り返った。
「デュヴェルコード! 落とせ!」
「はい! 『ディープピットフォール』!」
デュヴェルコードは手を翳し、トラップ魔法を唱えた。