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5話 爛漫勇者6





 勇者に怒声を遮られ、胸元に手を差し出されたシノ。


「え、えっ?」


 どうやら突然の出来事に、シノは困惑しているようだ。


おどかしてわりぃな、シノ。つい手が動いちまった。オレも、気持ち分からなくもねぇんだ……!」


「まさか私を庇って……。ですが、あの魔族共は許せません!

 あんな脳みその腐ったゲス共に、舐められっ放しでは……」


「オメェ、ゴラッ! シノ!」


 またしても、シノの言葉を遮った勇者。

 怒声と共に、差し出した手でシノの胸ぐらを掴んだ。

 そのまま勢いよく胸ぐらを持ち上げ、シノの体を宙に浮かせる。

 一時はシノを庇ったように見えたが、これはいったい……。


「くっ、苦しいです……! なんで私が、敵はあっち……」


「シノよぉ。聞こえなかったのか? 気持ち分からなくもねぇって。

 オレも、オメェのなっげぇ名前を覚えてねぇんだわ。だから魔王の気持ちも、分からなくもねぇつってんだ!

 オレも脳みそ腐ってんのかなぁ?」


 シノを浮かせたまま、平常を装うように語る勇者。

 気持ちって、そっちかよ。言葉足らずで、恐らく全員が勘違いしたぞ……。


「く、腐っていません……! 瑞々(みずみず)しく、たわわな脳みそです……!」


「ハハッ! オメェはフォローまで下品だな。ちゃんと反省してんのか?

 このまま胸元が引き裂けるまで、持ち上げといてやろうか?」


「は、反省しています! ですから人前では……止めてください」


 反省を聞き入れたのか、勇者は満足げな表情で、顔を赤らめるシノを地面に下ろした。

 人前ではって、ふたりきりの時はやっているのか……?


「勇者よ。昨日もそこのシノに言ったのだが、冷やかしなら帰ってくれないか?

 正直なところ、無益むえきな戦いは好まない上に、お前たちの痴話ちわ喧嘩を見るつもりもない」


「らしくねぇ提案だな。魔王が無益なんて語んのかよ。

 寝すぎて腑抜ふぬけたか?」


「同胞と城のためになら、甘んじて戦闘を受け入れる。

 だがお前が手を引くのなら、魔王軍は手を出さない。それだけだ」


 俺が言い返すなり、勇者の眉がピクリと動いた。


「さっきからなぁ……。その『お前』って呼び方、鼻につくんだよ」


「では名乗ってはどうだ? そこのシノが語るに、私たちは脳みそが腐っているらしいからな。記憶にないのだよ」


「ハハッ! 確かに、テメェの言う通りだ。

 オレたちみんな、シノ以外は脳みそ腐ってたな!」


「ちょっと、あたくしは例外よ。

 脳みそ腐っている連中と、一緒にしないでもらえるかしら」


 俺の隣から1歩前へ出るなり、レアコードはこの場にいるシノ以外の全員を、敵に回すツッコミを入れた。


「レアコードよ。頼むから、お前は波風を立てないでくれ。

 ただでさえ冷酷で、トゲがあるのだから……!」


 俺はレアコードの肩を叩き、後ろに下がるようさとした。


「相っ変わらず、残忍ざんにんなダークエルフだ。見た目はパーフェクトなのによ!

 部下がシャシャらねぇよう、きっちりしつけしとけよ、魔王!」


「…………お前、自分の右腕を見てみろよ。マンマだぞ? その残念な女……。

 そっくりそのまま、今の言葉を返すわ」


「ハハッ! オレの名は、勇者ンーディオだ! 金輪際こんりんざい、忘れんじゃねぇぞ!」


 突然、流れに沿わない自己紹介を始めた、勇者ンーディオ。

 デュヴェルコードと言い、この世界の住人は、まともな流れで名乗れないのか……?


「ン……ンーディオ!?」


「なんだテメェ。そのメンチ切ったツラは。オレの顔になんかついてんのか!?」


「いやっ…………間抜けた反応だな……!

 名前に驚いたつもりなんだが、『ン』から始まるのか」


 俺は軽く驚いて見せたが、内心は衝撃を受けていた。


 しりとりの概念がいねんを変えそうな珍名だ。まさか『ン』から始まる名前が存在するとは。

 まるで、しりとりのジョーカーだ……!


「いずれ歴代最強の勇者として、この名が語りがれるだろうな。

 テメェには、オレの名声を高めるためのかてとなってもらう」


丁重ていちょうにお断りなんだが……!」


「ハハッ! 寝起きの魔王に言っても、実感ねぇか!

 まぁ安心しな。今日はほんの挨拶程度だ。そして、これは挨拶代わりに……!」

 

 語尾を弱めながら、肩に担ぐ聖剣スキャンダルを両手に持ち替え、腰元こしもとに構えたンーディオ。


「デュヴェルコードよ、一応備えておけ……」


「かしこまりました……」


 ンーディオの動きを悟り、俺は小声でデュヴェルコードに指示を出す。


「魔王ロース、おはよう。そして……」


 ンーディオが腰を低く構えた途端、聖剣スキャンダルは強い光を放ち始めた。



「――これで、おやすみだ……!」



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