5話 爛漫勇者4
『――隣人ニュース! 隣人ニュース!
ただいま正門前にて、敵軍の接近を確認! ご興味のある方は、挙って正門前にお急ぎください!』
俺の指示を遮り、いつもの場にそぐわない放送が城内に流れた。
「ロース様のご要望通り、今回から放送のテイストを変えさせました」
「それは偉いが、変わらず締まらない放送だ……。隣人ではなく、臨時な。
後半なんて、近所の野次馬って感じがしたぞ……!」
「ではまた、変更するよう伝えておきます。
それよりも、今は正門へ急行しましょう! 勇者に踏み込まれては、せっかくの作戦が水の泡になります。
ブクブクゥ……アワアワァ……!」
可愛らしく口を震わせ、10本の指をワシャワシャと動かすデュヴェルコード。
「そ、そうだな……。きっと今の放送で、勘の良いレアコードであれば、正門に向かうはずだ。
合流は現地とし、私たちも急ごう」
「えっ! わたくしのモノマネは、ノータッチですか!? せめて、なんのマネかの確認は!?」
「い、急いでいるのだろ……? まぁ、仕方ない。すぐに答えろ、なんのマネだ? クラーケンか?」
「いいえ。ひとり酔い潰れて、ロープで運ばれている時のロース様です!」
「…………おい、なんのマネだ……! 別の意味で」
デュヴェルコードの解答で、俺は以前に聞いた話を思い出した。
ロープに浮遊魔法をかけ、酔い潰れた前魔王を運搬していた話を。
モノマネの動作からして、この子……。
本当に首から吊し上げにして、運んでいたんじゃ……!
「正解発表も済みましたので、出陣といきましょう!
ロース様、今回は『テレポート』を使用してもよろしいですか?」
「構わん……。そろそろ耐性もつき始めたし、気分的に吐きもしないと思う……」
「かしこまりました。では胸元に失礼して……『テレポート』!」
俺の胸元へと飛び込むなり、デュヴェルコードは元気よく魔法を唱えた。
ふたりの足元を取り巻く魔法陣の光に、俺は瞼を固く閉じる。
――少しの間を置き、目を開くと……。
昨日と同様に、城内大扉の前に瞬間移動していた。
そして、大扉の前には……。
「お待ちしておりましたわ、ロース様。体調はいかがかしら?」
俺たちより先に、レアコードが待機していた。
「遅れてすまない、レアコードよ。先に休ませてもらった分、調子は万全だ」
「それなら安心ですわ。もしも寝不足なんて事になっていたら……。
強引にでもムチを打って、浴びせるように支援魔法をかけて、無理矢理でも戦場に立っていただくつもりでしたので」
レアコードは背中からムチのような物を取り出し、ヒョイとその場に投げ落とした。
不調を訴えると、本当にムチを打つつもりだったのか……?
「あ、相手が私であろうと、お前は容赦なさそうだな……。冷酷気質は、敵に向けてくれよな」
「無論ですわ。人族如きにかける慈悲など、持ち合わせておりませんもの」
「わたくしもです、ロース様! 加えて、ロース様もですよね!
大扉の向こうにいる愚かな敵さんに、いったい誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせて差し上げましょう!」
その喧嘩を買った魔王軍は、既に完全攻略まで追い込まれているけどな……!
そもそも、長年に渡る争いと聞いていたが、事の発端はなんなのだろう……?
デュヴェルコードは両手を大扉に添え、羽ばたく鳥のように……。
――バンッ……!
華麗に、そして豪快に大扉を押し開いた。
「どうやら今回は、ちゃんとパーティで来たようだな」
正門を露わにした大扉。
そこから見えたのは、正門へとゆっくり歩みを寄せる、4人組の人間。
集団の中には、昨日ボコボコになり帰っていった、シノの姿もあった。
そして、その4人組の中に。
「ひとりだけ、偉く体格のいいヤツがいるな。背中にマントを羽織っているという事は……」
一際目立つ、大きなマントを靡かせる男がいた。
青と白をバランスよく配色した身なりで、いかにも勇者という感じだ。
「ご察しの通り、あの忌々しくも偉そげなマントの男が、勇者です」
俺の呟くトーンに合わせ、小声で囁くデュヴェルコード。
「偉そげと言われれば、確かにそうだが。
それ以上に……あの勇者の様子は、まるで……」