4話 猛者復活9
抵抗の可能性を考慮したデュヴェルコードは、シノに麻痺魔法『パラライズ』をかけ。
「ちょっと! これ解除しなさいよ、ロリエルフ!」
シノはそのまま、呆気なく地面へと倒れた。
「ボコボコにするまで解きませんよ。それに、どうせ抵抗しないのなら一緒じゃないですか」
「どこが一緒よ! これ、惨めすぎるでしょ!
殴られ終わるまで我慢すればいいはずだったのに、これじゃ我慢もできないわよ!」
「ごちゃごちゃと騒がしいですね。耳障りなので、始めます…………。
うりゃーー!! レア姉の仇ーーっ!!」
デュヴェルコードは気合のこもった叫声と共に。
――ポカポカポカポカポカポカッ……!
微動だにしないシノを、ポカポカと小さな拳で殴りだした。
「いいい、痛っ……くないっ! 痛くないけど、地味に痛い! 中途半端に痛いのよ!」
「まだまだこれからです! こんな事では、レア姉の無念は浮かばれません!
うりゃーー! レア姉の仇ーーっ!」
だからお前の姉は、既に生き返ってるって……。
しばらくの間、デュヴェルコードはポカポカとシノに貧弱なパンチを浴びせ続けた。
まるで、なかなか起きない親を叩き起こそうとする、日曜朝の子供みたいだ……。
「私はいったい、何を見さされているんだ……。とても両軍の副将同士が戦っているとは思えない……!」
それから数分後。
デュヴェルコードは息を荒げ、スッキリした表情で拳を止めた。
そしてシノは。
「うぅぅ……うぅっ……。終始、ずっと地味に痛かった……」
本人の希望通り、ボコボコにされた姿へと変貌を遂げた。
「ロース様、お待たせして申し訳ありません。この女の願いを叶えて差し上げました」
デュヴェルコードは煌びやかな顔つきで、俺へと振り向いてくる。
「あぁ、うん。ご苦労だったな……」
「生まれて初めて、敵さんを素手で倒しました! 格闘スタイルのロース様は、いつもこんなお気持ちなのですね!」
「たぶん……違うかな……」
表情をキープしたまま、デュヴェルコードはシノへと向き直る。
「望みは叶えましたよ、残念な女。魔法使いに物理攻撃でボコボコにされた気分はいかがですか? 満足いきましたか?」
「なわけないでしょ! 後味悪いわよ!
ちゃっかり、顔にも数発いれてくるし!」
デュヴェルコードの煽りにシノが噛みついた。その時……。
――コッ、コッ、コッ……!
大扉の方から、聞き覚えのあるヒール音が聞こえてきた。
「お待たせしました、ロース様。良い女の支度は念入りなもので」
「はぁーーっ!? レアコード!?」
装備を整え姿を現したレアコードに、真っ先に反応を示したのは、シノだった。
「あらら……? この状況は、予想もつかなかったわ。なかなかに滑稽ね」
「ど、どうして生きてんのよ! レアコードは、私が仕留めたはずなのに!」
「わたくしが蘇生したのです。ぬか喜びでしたね、ドンマイです」
心にもない慰めを、平然と言ってのけるデュヴェルコード。
「せっかく倒したって言うのに……!」
「その節はどうも。それで、どうしてジャングリッグウィンペイスト・ウォーリスモ・サンパウスティンダークロスペルディーヌは倒れているのかしら?」
「わたくしが、ボコボコにして差し上げたのです。それも素手で! エヘヘンッ!」
両手を腰に当て、ドヤ顔で言い放つデュヴェルコード。
その前に、なんでレアコードはフルネームを覚えているんだ。
しかもデュヴェルコードは、ノータッチで自慢話に入るし……!
「差し上げた……? 推察だけど、この女が自ら敗北を求めたって事かしら?」
「なぜ今の説明だけで推し量れた!? 探偵並みの嗅覚だな!
ほぼ察しの通りだが……。このシノとやらは、勇者からの信頼を欲し、ボコボコにされたがっていたんだ」
「…………申し訳ありません、ロース様。さすがにその野心は特殊すぎて、推察し兼ねますわ。
でも、この女が必死になっている事は、察しがつくわね……」
レアコードは地面に横たわるシノへと、歩みを寄せ始めた。
悔しげに睨みをきかせるシノの前で足を止め、冷徹な下目遣いのまま、ゆっくりと片膝を地につけた。
「勇者の右腕なんて調子に乗っていたくせに、惨めな有り様ね」
「う、うるさいわね! 私だって、こんなオネダリしたくなかったわよ!
もう十分ボコボコなんだから、早く帰らせて!」
「んん……却下っ。それは都合が良すぎるわ。
自分だけ、得してばっかりって思わない?」
「…………いや。この有り様を見て、どこかに得を感じる……?
まさか、私が殺めた事……恨んでる?」
「そうねぇ……多少は。でもせっかく蘇ったし、今度はあたくしがトドメを刺してあげようかしら?」
レアコードは不敵な笑みを浮かべ、シノに片手を翳した。
「えっ……ちょっ、待ってよ。何する気!?
私、既にボロボロよ!? 無抵抗なノーガードよ!? シャレにならないからっ!」
「フフッ…………。『ヒール』……!」
レアコードはシノに向け、静かに回復魔法を唱えた。
「「はっ…………? はぁぁーーー!?」」
予期しなかったレアコードの回復魔法に、俺とシノのリアクションがハモる。
――ボコボコにされたシノの体は……。『ヒール』により、ミルミルと回復していった……。