34話 大戦前夜7
「――おいハーレム共! 今日はここを貸し切って、パーッとキャンプだ! シノ、テント張るぞ! あとは火起こしだ!」
両手を大きく広げ、高らかに勇者パーティへと指示を叫んだンーディオ。
それはまるで、戦の事など頭から排除した、お祭り騒ぎのような声だった。
「聞いただろハーレム共、今夜は前夜祭だ! 焚き火を囲み、ド派手に盛り上がるぞ! これはハーレムメンバーの義務だ、盛り上がれねぇヤツは今すぐ帰れ!」
ンーディオはパーティメンバーを順に指差しながら、謎の確認を取り始めた。
何だよ、前夜祭の義務化って、ただのお祭り男じゃないか……!
「は、はい、ンーディオ様! 直ちに準備を! 聞いたでしょイマシエル、マイル。あなたたちは火起こし! 私はンーディオ様のテントを立てるから!」
「ハハッ! おいシノ、お前がテント立てるなんて吐かしたら、下品に聞こえんだよ。敵前で恥晒してんじゃねぇよ!」
「ごご、ごめんなさい!」
「謝ってねぇで取り掛かれ! ハハッ、盛り上がってきたぜぇ!」
俺たちの事などお構いなしな様子で、勝手に盛り上がりを見せていく勇者パーティ。
シノや他のメンバーはンーディオの指示に従い、各々にキャンプの準備を始めていく。
「待て待てっ! なんで勝手に話を進めているのだ。私は何も許可していないだろ!」
淡々と準備を始める勇者パーティに痺れを切らし、俺は正門に向け怒声を放った。
「は? ダメなのかよ」
「当たり前だ! 何をノコノコと敵陣に足を踏み込んで、呑気にキャンプ計画してんだよ!」
「どこが呑気だ! テンション爆上げてんだろ!」
「な、何で逆ギレしてんだ」
「テメェが理不尽な口利きやがるからだ! この世界は誰の所有物でもねぇだろ! ならオレたちがここをどう使おうと、自由のはずだ! テメェにその自由を奪う権利でもあんのか!」
「どんな理屈だ、自由すぎるだろ。ならお前の部屋で私がキャンプしても、構わないという事か?」
「………………テメェ、頭沸いてんのか? 良いわけねぇだろ。部屋の中でキャンプなんてしてみろ、焚き火でソッコー火事だろ。常識的にあり得ねぇ」
小馬鹿にしているのか、それとも愚問に呆れているのか、首を傾げながら落ち着いた様子で言い返してきたンーディオ。
「土地権利の話をしている最中に、お前はどこを気にしてんだ。そんな問題ではないだろ」
「細かい野郎だな、脳筋のくせに。とにかくこの広場はオレが貸し切るからな。世が明けるまで、立ち入ったりすんじゃねぇぞ。明日まで一時休戦だ」
「そんな勝手が許されると思って……!」
俺が反論しようとするなり、横からクイクイと服を引っ張られた。
俺は思わず口を止め、引っ張られた先を見てみる。
「ロース様、ここはチンピラ勇者の誘いに乗ってみてはいかがでしょうか」
視線を向けた先、デュヴェルコードが訴えかけるような顔つきで、俺に提案を持ちかけてきた。
「どうしてそこまで、親切にしてやる必要がある。相手はンーディオだぞ」
「確かにロース様のお気持ちも分かりますし、癪に障る申し出です。魔王城の敷地内で楽しげにキャンプだなんて。
しかし敵さんが手を出して来ないのであれば、こちらにとっても好都合。今のうちに戦いに備えるべきです」
「それはそうだが……。魔王城の敷地内だぞ? 完全にナメられてないか?」
「おっしゃる通りですが、ナメ切っているのは敵さんの油断とも捉えられます。いざという時は、敵さんの寝首を掻くだけです。あのゲス野郎たちを、ナメられた事実諸共、闇に葬っちゃいましょう」
「………………その考えが1番ゲスだな」
隣で静かに首元を手でスライスするデュヴェルコードに、俺は顔を引き攣らせる。
「ロース様、我もこの小娘の意見に賛同ですぞ」
俺がデュヴェルコードに軽蔑の眼差しを向ける最中、今度はコジルドが意見を述べてきた。
「お前まで何だ。1番テリトリーにうるさそうなくせして」
「フハハッ、夜とは我のターン。今宵の闇に紛れ、寝首を掻くなど容易いですぞ」
「やめておけ。お前の場合、暗殺は愚か、夜中に大騒ぎして敵を起こし、返り討ちにされるイメージしか湧かないぞ」
俺はコジルドを軽く遇い、勇者パーティへと向き直る。
「ンーディオよ、今回はお前の条件を呑んでやる。私たちも準備が必要だからな。精々奇襲に怯えながら、一夜を過ごすがいい」
俺は色々と考えた後、腑に落ちないながらもンーディオの申し出を受ける事にした。
「ハハッ! 笑わせるじゃねぇか、お前でも冗談が言えんだな。誰がテメェらの奇襲なんかにビクつくかよ」
「まったく、口ばかり達者な勇者だ。今のうちに有りっ丈の強がりを吐き切っておくがいいさ。明日勝利するのは、私たち魔族なのだからな」
俺は有りっ丈の強がりを吐き、虚勢を悟られないよう、勇者パーティに勢いよく背を向けた。
「――デュヴェルコード、そしてコジルド、城内へ戻るぞ。私たちは明日、あの怪物を滅ぼす……!」




