34話 大戦前夜5
城内放送を聞いた俺とデュヴェルコードは、勇者ンーディオを迎え撃つため、広場に通じる大扉へと急行した。
「到着致しました、ロース様」
「あぁ、私たちが1番乗りのようだな」
俺はデュヴェルコードに視線を向ける事なく、正門の方を見つめながら返答する。
「本当に来やがったか、ンーディオのヤツ……!」
視線の先、正門。
そこにはンーディオ率いる勇者パーティが、堂々とした態度で待ち構えていた。
お馴染みのメンバーに、お馴染みの武装。
気怠そうに魔剣を握るンーディオを筆頭に、勇者パーティがこちらを睨みつけている。
「大変な事態になりましたね、ロース様」
「まったくだ、ついに騙し討ちに踏み込むとは、ンーディオには失望した」
「大変と言えば…………あっ、大変です! チンピラ勇者より大変な事を思い出しました!」
俺の隣で、突然デュヴェルコードが声を荒げ慌て始めた。
「な、なんだこんな時に! 騙し討ちに来た敵を前にして、これ以上の緊急事態が他にあるのか!?」
「はい、大アリです! ブリが、ブリが危険です!」
「ブ、ブリアーヌが危険? どういう事だ。ンーディオが来たところで、ブリアーヌは何も関係ないだろ」
「いいえ、大ピンチです! だってブリは今、コジルドさんに預けてあるのですから!」
デュヴェルコードは頭を掻き毟りながら、慌てた口調で打ち明けてきた。
「コジルドにって、それは別ベクトルで危ないだけだろ。そもそも誰に預けてんだ、お前の人選が悪いだろ」
「だってだって! 他に暇そうな魔族が思いつかなかったのですもの!」
「だからって、態々コジルドに預けるなよ。自分から危険人物のもとに誘ったくせに、今更騒ぐな。しかし今は……」
俺はデュヴェルコードから視線を切るなり、勇者パーティに顔を向けた。
「――おいっ、ンーディオ! こんな日に何しに来やがった!」
俺は正門にも届く大声で、ンーディオに質問を投げ掛ける。
「ハハッ! おいおい、いきなり喧嘩腰か? 魔王のくせによぉ!」
「何がくせにだ、お前が言える事か! お前だって勇者のくせに、卑怯な手口を使いやがって! 堂々と真っ向勝負もできないのか!」
「あぁ? 何の事だ」
俺が怒声を飛ばし続けていると、ンーディオはピクリと眉を反応させ、睨みを利かしてきた。
「白ばくれるな、お前はおとぼけ勇者か? お前から届いた不愉快な矢文には、『明後日』と書かれていた。つまりお前が攻め込む日は明日のはず、何を1日前倒ししてんだ、この卑怯者が!
どうせ嘘の日付を指定して、私たち魔族の油断に漬け込もうとしたのだろ、そういう魂胆だろ! 姑息な勇者め、お陰でこちらは準備不足だ!」
「何をペラペラと虚言垂れてんだ、脳筋魔王が! テメェは日にちも数えられねぇのかよ!」
「数えられるに決まっている! 昨日矢文が届いたのだから、明後日は明日の事だろ!」
「テメェのモノサシで測るんじゃねぇよ! オレがあの宣告文を書いたのは、一昨日だ! だから今日ここへ来たんだろ! テメェの都合で勝手ばっか吐かしてんじゃねぇ!」
「書いた…………って、そんな事知るか! お前の方が都合を押し付けてるだろ! 書いたら早く送れよ!」
「うっせぇな! オレは指定日の通りに来てやって、テメェらにとっては1日前乗り。誰にとっても遅刻がなかっただけ、ずっとマシだろ!」
魔剣を乱暴にガンガンと地面に突きながら、ンーディオも負けじと怒声を返してくる。
何で俺が怒られたみたいになってんだよ、確かに遅刻はしてないが……!
俺たちの言い合いに、少しの合間が生まれた時。
「――フハハッ! 我、参上である!」
俺の背後から、痛々しいコジルドの声が轟いてきた。
「来たか、コジルドよ」
俺は背後から足音が迫る中、首だけを後ろへ振り向かせる。
「当然ですぞ! あの忌々しい二流勇者め、1日も早く来よって。我が引導を渡してやりますぞ!」
「おい、コジルド……! お前、何連れて来てんだよ」
俺はコジルドの隣を歩く者に、自然と視線が向いた。
そこにはデュヴェルコードがコジルドのもとに預けたと言う、ブリアーヌの姿が。
「この鳥娘でありますか? 側近小娘に任された故、責任を持って面倒を見ている最中でありますぞ」
コジルドは面倒見の良さをアピールする様子で、隣を歩くブリアーヌの頭に、ポンポンと片手を添えた。
何で更に余計な危険を増やしてんだ、この厨二ヴァンパイア……!