34話 大戦前夜4
俺は寝室にこもり、デュヴェルコードと勇者ンーディオについて話していた。
そしてその結果、俺はある結論に至った。
――考えたくもないが、まさかンーディオの正体って……!
「いかがなさいましたか、ロース様。お顔が真っ青ですよ。まるで血の気が引いた魔王みたいに……」
「みたいにではなく、血の気が引いた魔王なんだよ。例えるならもっと捻りを加えてだな」
「あ、はい。ツイストするよう、以後気をつけます」
「………………そうか、頼む」
「ところで、突然何があったのですか?」
デュヴェルコードは心配する様子で、俺の顔を覗き込んできた。
「ンーディオが何者なのか、分かった気がする……!」
「何者とおっしゃられても、あれはチンピラ勇者。それ以上でもそれ以下でもありません」
「そうではなく、もっと深い意味というか、ンーディオの正体は……」
俺が思うンーディオの正体を口にしようとした、その時。
『――緊急事態が現れました! 緊急事態が姿を現しました!』
魔王城の城内放送が、大音量でスピーカーから流れてきた。
「緊急事態が、現れた? どんな姿だよ、それ。毎度毎度、場違いな放送だな」
「緊急事態だそうです、ロース様! どどど、どうしましょう!」
「落ち着けデュヴェルコード、まずは続きを聞いてからだ。今は慌てふためくな」
俺は取り乱すデュヴェルコードに、落ち着くよう静止を促す。
『……………………キ、キキキッ』
「何か言えよ放送! 軋む扉か!」
『キ、キキキッ、危険です! 危険な香りが漂っています! それはもう、近づくべからずと言わんばかりに、ムンムンと! あの不適な笑み、雑な武器の扱い、態度、視線、間違いありません! 勇者ンーディオが現れました!』
「なにっ、ンーディオだと!?」
俺はスピーカーから流れた名前を聞くなり、ベットから立ち上がった。
「これ以上ない緊急事態だ、デュヴェルコード!」
「おっしゃる通りです! 放送室まで漂うほどの汚臭なんて! 只事ではありません、これは危険ですね、ロース様!」
「危険な要素はそこじゃない、ンーディオそのものだ!」
素直に放送を鵜呑みにするデュヴェルコードに、俺は即座に訂正を入れる。
これはいったい、どういう事だ……!
ンーディオからの矢文に書かれていた宣戦布告は、今日ではない。明日のはずだ。
まさかここへきて、俺たちの油断に漬け込もうとしているのか? 嘘の日付を指定して……!
「まったく、なんてヤツだ! まさか嘘の日付で我々を撹乱させるとは、思いも寄らなかった! 完全攻略どころか、ただの卑怯者じゃないか!」
俺はスピーカーを睨みつけながら、拳を握り締め怒りを露わにした。
「来たものは仕方ない。行くぞ、デュヴェルコード! 動ける魔族を、直ちに正門へと向かわせるのだ!」
「ふぁい! ローフひゃま!」
間抜けた返事が聞こえるなり、俺は咄嗟にデュヴェルコードへと振り返る。
するとデュヴェルコードは立ち尽くしたまま、片手で鼻を摘んでいた。
「だから、実際に臭い訳ではない。危険な予感の例えだろ」
「念には念をです! 本当にチンピラ勇者が汚臭を放っている可能性も、捨て切れませんので!」
「まったく、変なところ頑固だな。まぁ好きにしてくれ。それより急ぐぞ、『テレポート』だ」
「かしこまりました、『テレポート』!」
デュヴェルコードは強引に俺の手を取るなり、素早く魔法を詠唱し、魔法陣を出現させた。




