4話 猛者復活8
「デュヴェルコードよ……。一応聞いてみるのだが、肩なんて回してどうした……?」
視界を移した先で、目を輝かせ肩を回していたデュヴェルコード。
「温めているのですよ。ウォーミングアップと言うやつです。
この残念な女を帰らせる、最適な方法の準備運動を」
聞くまでもなく、俺の予想通りだった。
「何っ! おい魔王。ここはお前が手を下す流れじゃないの!?
なんで、この未半熟エルフなのよ!」
「なんですか、その半熟にも満たない表現は。どうせやられるのなら、誰が手を下したって結果は同じですよ。
わざわざロース様の手を煩わす必要はありません」
「同じじゃないわよ! お前は貧弱なマジックキャスターじゃない!
なんかムカつくのよ! 後味が悪くなるのよ!」
「あははっ、ご心配なく。だって抵抗しないのでしょ? パカみたいなご自分の名に誓ったのだから。
貧弱でも、ダメージを与える事はできるので大丈夫ですよ」
「いや……。私の話、聞いてた? メンタルの心配なんだけど……」
シノは体勢を変えぬまま、噛み合わない会話に顔を引き攣らせる。
「ロース様、ここはわたくしにお任せを。一応この残念な女は、レア姉の仇でもあるので。
大義名分のもと、ボコボコにして差し上げたいと思います」
俺に向け、デュヴェルコードはニッコリと笑いかけてきた。
仇ではあるが……お前の姉は、既に生き返っているぞ。
「まさか今から起きる攻防が、お前にとっては仇討ちで、シノにとってはご褒美になるとは……。
まぁお互い、気が済むようにしてくれ」
「おい魔王! 言い方っ!!
これはあくまで、任務の一環よ! ご褒美なら、帰って勇者様に……って何言わせんのよ!」
「…………お前は表現だけでなく、口元までだらしないな……おしゃべり騎士」
「う、うるさいわね!
こんな小娘にやられるのはムカつくけど、背に腹は代えられないわ。ロリエルフで我慢してあげるわよ。
あっ………………一応言っておくけど、精神支配系は止めてよ? 心ボロボロは話が違うから。できれば物証が残るやり方で。
あと顔も止めてね……?」
「注文が多いですね。ご自分の立場を理解しています?
まっ、更々魔法で倒すつもりはありませんでしたが。魔力がもったいないので」
デュヴェルコードは肩を回しながら、シノへと近寄り始めた。
その魔力がもったいない精神、3日前に芽生えてほしかった……。
未だにお辞儀をするシノの前で、歩みを止めたデュヴェルコード。
下目遣いでシノを見下ろし、ゆっくりと右腕を振りかぶった。
だが……。
「んん…………」
デュヴェルコードは悩むように小さく唸り、首を傾げた。
「な、何よ! 殴らないの!?
寸止めなんかして、ソワソワするじゃない! 何ジャンルの焦らしよ!」
「本当に下品で残念な女ですね……。
少し考えたのです。もしこれが、嘘だったらと」
「はっ!? この期に及んで、何を……!」
「人間とは、ズル賢い種族ですからね。
誓いを破る可能性も捨てきれないので、念のために。『パラライズ』……!」
無情にも、デュヴェルコードはシノに麻痺魔法をかけた。
そして、麻痺魔法を受けたシノは。
「ちょっ! ロリエルフ、何してっ……!」
――バタッ……!
デュヴェルコードの足元に、力なく倒れた……。