34話 大戦前夜2
寝室にて、俺はデュヴェルコードと勇者ンーディオの行動について話していた。
「話を戻すが、ンーディオは1度、この寝室を覗きに来たのだな? それも、私が長い眠りについていた時に」
「はい。無礼にもノックもなしに、チンピラ勇者が中の様子を窺っていました」
「無礼にもって、それは敵だからノックなんてしないだろ」
「そうですね、おまけにチンピラですし。しかもわたくしが着替えている最中に覗いてきたのです。
まったく、なんて間の悪いチンピラでしょうか! 挙句にニヤッと不適な笑みを浮かべて去っていくし!」
当時の状況が鮮明に蘇ったのか、デュヴェルコードの口調と表情が、少しずつ怒気を帯びていく。
「そう言えば、前にもそんな事を言っていたな。でもよくよく考えると……」
タイミングが悪かっただけで、まさかンーディオは偵察に来たのだろうか。
魔王がまだ眠ったままかの確認と、そこにデュヴェルコードが付き添っているかを……!
この話をデュヴェルコードから初めて聞いた時、ンーディオはニヤリと笑いながらも、寝室の状況を見て気を遣ったのかと思っていた。
寝室で、魔王と脱衣した側近のセットなんて目の当たりにしたら、どうぞお楽しみくださいと、気を遣う可能性だってあるから。大人の対応をしたのかと思っていた。
だがンーディオの笑みの奥には、自分の思惑通りに事が進んでいる充足感が、潜んでいたのかも知れない……!
「ロース様、いくらなんでも、よーくお考えすぎでは? お熱とか出ますよ」
ひとり下を向き考え込んでいた俺の額に、突然手の平を添えてきたデュヴェルコード。
「おい、それって遠回しに、私が脳筋魔王と言いたいのか?」
「い、いえ、その様な事は。ただロース様は頭脳系と言うよりも、全身筋肉任せな肉弾系ですので。硬い脳みそがオーバーヒートしないか、心配になっただけです」
「それを脳筋って言うんだよ。でも、ひとつ気になるな……」
「も、申し訳ありません! わたくしが失言したばかりに、ロース様を不安にさせてしまいました! 周りが脳筋魔王と囃し立てようが、お気になさらないでください!」
「………………真剣に謝るな、惨めになるだろ。て言うか、今そんな事は気にしていない、ンーディオの事だ」
俺はデュヴェルコードから視線を切るなり、ベットに腰掛けたまま、再びひとり考え込む。
ンーディオの最終目的は、この城の完全攻略ではない。魔王の討伐だ。
もしも俺がこの体に転生する事なく、前魔王の状態で長い眠りから目覚めていたら……。
ンーディオは剛腕魔王と最強の側近を、ラスボスとして相手にしなければならない。
そんなリスクを負ってまで、態々魔王が目覚めるのを待ったのか?
魔王が目覚める前に、デュヴェルコードひとりを相手にした方が、勝算は高いはず。
なのに、何故……。
「ま、まさかっ……!」
俺はとある直感から、思わずハッと顔を上げた。
「い、いかがなさいましたか!?」
「い、いや……ちょっと考えが巡って」
俺はポリポリと頭を掻きながら、デュヴェルコードを適当に遇う。
――まさか敢えて魔王の目覚めを待ったのは、デュヴェルコードに枷を掛けるため?
それも、魔王という一級品の枷を……!
デュヴェルコードなら、側近として魔王を庇いながら戦う、はず。多分……。
それも目覚めて間もない、足手纏いな魔王を。
そんな戦況に陥ると、デュヴェルコードは本領を発揮できない。
ンーディオが真っ向からの完全勝利を目論んでいたとすると、あり得る筋書きだ。
しかも現実は、何も知らない俺が転生し、魔王として目覚めた。
空論だが、もしもこの世界を知る前の俺とデュヴェルコードだけで、勇者パーティを相手にしていたら、確実に『はじめまして、さようなら』の結末を迎えていた。
運良くその最悪は免れたが、大いにあり得るシナリオだった……!
それに、初対面だったンーディオが、俺に向けて口にした発言も気になる。
「デュヴェルコードよ、覚えているか? 私が目覚めた後、ンーディオが私に何て言ったか」
「勿論、鮮明に覚えていますよ! 『ハハッ! おいおい魔王、テメェ記憶がねぇのか。だろうな、想定内だ!』です」
「あ、相変わらず上手いな、そのセルフモノマネ。それに、よく一言一句違わず覚えてたな」
「当然です! あの時、わたくしがチンピラ勇者に、ロース様は記憶喪失だとペロッちゃったので!」
デュヴェルコードは反省の様子もなく、なぜか得意げに胸を張って答えてきた。
「………………何で誇らしげに語ってんだ。あれは忘れようのない大ミスだろ。もっと自重しろよ」
俺は個性も相変わらずな側近を前に、再び大きなため息をついた。
「ハァーッ……! それでだ、ンーディオの口にした『想定内』とは、どういう事だと思う?」




