33話 正体妄想9
食事を終えた俺は、明日に控えた勇者ンーディオとの決戦に備えたいと言い残し、食堂を後にした。
「勇者ンーディオ、か……」
俺はひとりボソボソと呟きながら、寝室へと戻って来た。
寝室に入るなり、俺は真っ先にベッドの上に横たわる。
「あの怪物級に強い勇者は、いったい何者なんだ……?」
俺は寝転んだまま両手を頭の後ろに回し、ボーッと天井を眺める。
先ほど話していたブリアーヌの母親の正体から紐付き、思わず勇者ンーディオの正体について考え始めていた。
「確かに化け物じみた戦闘能力だし、並外れた運動神経も備えている。使える武器も魔法も強力だ。実力に似合った呼び名だと思う。そしてそれ以上にアイツの凄いところは、この魔王城を完全攻略した事。それも、たった4人で構成された、小規模なパーティで。魔王軍には、千人もの軍勢を一撃で全滅させられる猛者だっているのに。それでもアイツは、この城を攻略した。全くもって恐ろしい勇者だ。
だけどなぁ……分からない。いくら化け物じみた勇者でも、おかしな点があり過ぎる……!」
俺は頭を掻きむしり、ンーディオに抱いてきた違和感の数々を、頭の中で整理する。
「果たして、ただ強くて無双するだけのヤツが、本当に勇者なのか? ンーディオを見ていると、とても『勇ましき者』とは思えない。
態度、言葉遣い、身なり……どれを取っても立派からは程遠い。初めて会った時から、チンピラ要素しかなかった。まるで不祥事を起こすタイプの野球部みたいに、聖剣を気怠そうに地面に引き摺って歩いていたし。だらしない腰パンだったし。現代人でもしないぞ、そんな着こなし」
俺はンーディオの様相を頭に思い浮かべながら、軽く苦笑いした。
まさか昔は堅実で真っ当な勇者だったが、変な悪魔にでも憑依されて、体を乗っ取られたとか……?
一応は聖剣も扱えて、上級魔法も操れるだけの鍛錬はして来ただろうし。
「あの勇者、ガラは悪くてもバカではないと思う。現に俺が転生した時点で、この城は完全攻略されたと、デュヴェルコードも言っていたし。上級魔法もちゃんと使えるし。
だが気になるのは、魔王城が完全攻略されたタイミングだ。なぜ都合よく、前魔王が昏睡したタイミングで、勇者が動いた? 本当に偶然だろうか?
タイミングが悪いにしても、勇者パーティだけであのエリアボスたちが次々と倒されるなんて、あり得るのか? 難癖だらけのエリアボスたちだが、皆んなそれなりの強さは秘めている。魔王城のエリアボスたちを相手に、トントン拍子で攻略しては倒していくなんて、話が出来すぎてないか?」
俺はスッと上半身を起こし、顎に片手を添えた。
そしてこれまで交わしてきたエリアボスたちとの会話を遡り、皆の死に際を思い出していく。
「レアコードは確か、勇者の右腕であるシノにやられたと言っていたな。シノの類い稀ない特技、『死んだフリ』を見抜けず、不意を突かれたと。
そしてコジルドは、騙し討ち。『ライバルとして堂々と戦おう』とンーディオに提案を持ち掛けられ、油断したところで屋外に『テレポート』されたと言っていたな。ヴァンパイアの弱点である日光を浴びながら、シルバーソードでグサッと。そのまま袋叩きにされたと言っていた。ヴァンパイアと嫌われ者の要素を、全て利用されている。嫌われ者のコジルドに、『ライバル』なんて言葉は効果覿面だろう。更に日光とシルバーソードなんて、ヴァンパイアにとっては致命傷だな。どれだけ攻略してんだよ、ンーディオのヤツ……!」
俺は不意に窓の方へ顔を向け、コジルドの弱点である日光を見つめる。
「スゥーもレアコードと同じく、シノに負けたと言っていたな。何故かンーディオが倒した事になるよう、クリームでンーディオの名前を書かされ、偽装工作させられていたが。
しかし、どんな戦闘だったのだろう? そこは聞かなかったな。デュヴェルコードのお陰で、今となってはスゥーから情報を聞き出せなくなってしまったが。あのジャジャ馬ロリエルフめ……!」
俺の頭の中に浮かんでいたンーディオの顔が、忽ちデュヴェルコードのほくそ笑む顔へと切り替わった。
「さてっ、あとはマッドドクトールとキヨラカ。アイツらなら今からでも話ができる。ンーディオの情報を引き出してみるか」
俺はベットから腰を上げ、ふたりの話を聞こうと思い立ち、寝室を後にした。




