33話 正体妄想6
ブリアーヌの誕生日が昨日だったと明かされた途端、椅子を飛ばす勢いで立ち上がったデュヴェルコード。
「ブリ! 昨日が誕生日だったのですか!?」
「う、うん。記憶が正しければ、昨日だったと思うよ」
「大変です、それは大変です!!」
デュヴェルコードは叫声を発しながら、勢いよくスゥーの方へと体を向けた。
「料理長! この巨大なケーキに、今すぐロウソクを立ててください。これはわたくしからの命令です!」
「ブヒュー……。デュヴェルコードさん、何度も言うが、これは俺の復活祝いのケーキなんだが」
「つべこべ言わない! たった今、このケーキはお誕生日ケーキと化したのです! 時は待ってくれません、急いでください!」
「え、えぇ……」
スゥーは巨体に似合わない猫背で、デュヴェルコードに逆らう事なく、再び厨房へトボトボと歩いて行った。
「デュヴェルコードちゃん、そこまで拘らなくても、私は兼用でも構わないよ」
場の嫌な雰囲気を感じ取ったのか、ブリアーヌはかしこまりながら、気の利いた提案を持ちかける。
「いいえブリ、気持ち半分のケーキなんて、わたくしは認めません! そんなハーフアンドハーフなど、偽物です!」
ブリアーヌの意見に賛同する事なく、傲慢な理屈を押しつけるデュヴェルコード。
その理屈だと、ハーフハーピィであるブリアーヌの存在も、偽物という事になるが……!
「デュヴェルコードよ、そう頑固にならず落ち着け。そもそも、ブリアーヌの誕生日は過ぎたのだろ? 終わった誕生日を祝うのに、そこまでスゥーを急かさなくても」
「そんな事ありません! お誕生日を取り戻せばいいのです! 早く昨日を取り戻さないと、急いで祝わないと!」
「無茶言うなよ、昨日を取り戻すって……」
「できますよ、魔法で!」
「はっ? 時でも戻す気か?」
デュヴェルコードの突拍子もない発言に、俺は思わず目を見開く。
「それは流石に無理です。しかしわたくしの周囲にいる生命体の状態を、1日前に戻す事はできます!」
デュヴェルコードは自信満々に豪語するなり、片手を天に翳した。
「――『トゥレメンダス・リストアーライフフォーム』!」
聞いた事のない詠唱が食堂に響いた途端、周囲が淡い光に包まれる。
「はぁ、はぁ……完了です。わたくしの周囲にいる生命体は今、昨日の状態に戻りました。つまりこれで、ブリの誕生日を取り戻した事になります」
「な、何て強引な取り戻し方だ。それアリなのか?」
「はぁ、はぁ……大アリです! 誰が何と言おうと、今のブリはお誕生日ガールです!」
デュヴェルコードは息を荒げながら、固い意志を熱く語ってくる。
「大丈夫かよ、その息づかい。偉く疲れているようだが、お前の体は1日前に戻らなかったのか?」
「わたくしは対象外です。そして余りの魔力消費に、少々かなり疲れました」
少々かなりって、どっちだよ。見栄っ張りなのか疲労アピールしているのか分からないぞ……!
「おいおい、まさか明日勇者が攻めに来る事、忘れていないよな? 備えるどころか、自分を追い込んでどうする」
「ら、楽勝ですよ、はぁはぁ……! ですがこれで、周囲の生命体は1日前の状態に戻りました。
如何ですか? 1日前のお体に戻ったご気分は」
「如何と言われても、私にはそこまで実感が……。待てよ? 1日前に戻るという事は……」
俺は体の変化を確かめる最中、嫌な直感が働いた。
「まさか、まさか!」
俺は途端に厨房へと走り出し、急いで中を覗き込んだ。
周囲の生命体が昨日に戻るという事は、つまり……!
「スゥー! スゥーはどこだ!」
俺はキョロキョロと厨房を見回し、スゥーの姿を探す。
しかし厨房に居たのは、下っ端のゴブリンやコボルトたちばかり。
「おいっ、そこのゴブリン! 料理長はどこだ!」
俺は1番近くにいた冴えないゴブリンに、スゥーの居場所を問い詰めた。
「て、天に召されました……」
俺の嫌な予感は、的中した。
周囲の生命体が昨日の状態になるという事は、昨日復活したばかりのスゥーは、当然……!
俺は脱力から肩を落とし、トボトボと歩きながらテーブルへと戻る。
「おい、デュヴェルコード……。ブリアーヌの誕生日を取り戻す代償に、エリアボスがひとり絶命したぞ」
俺は後先考えず魔法を唱えたデュヴェルコードを睨み、厨房の事実を伝えた。
「………………ささっ、冷めないうちに、ケーキでも食べましょう。スゥーさんの残した、最後のケーキを……」
「誤魔化すなよ、顔引き攣ってるぞ。あとケーキは放っておいても冷めない」