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4話 猛者復活7





 勇者の右腕が、自らの名を『シノ』と名乗った途端……うちの側近が激怒した。


「ど、どうしたのだデュヴェルコード!」


「ロース様! このパカ女は、嘘をついております!」


 可愛らしい童顔を一変させ、鋭い睨みをきかせるデュヴェルコード。

 荒い呼吸に合わせ、力む両肩を上下させ始めた。

 

「わ、私は嘘など……!」


「この残念な女の名前は忘れました。ですが、シノなんて名前でなかった事は確かです!」


「分かったから落ち着け! 敵に二つ名を名乗る事くらい、よくあるだろ。

 きっとその程度だ。怒るほどの事でもない、一旦静まれ」


 俺は沸騰するデュヴェルコードに視線を向け、沈静化を図る。

 するとデュヴェルコードは力んだ肩を落とし、平常の様子へと戻っていった。


「言われてみれば……。お見苦しいところをお見せしました。わたくし、嘘が大嫌いなもので、つい……」


 そう言うお前は、正直すぎるけどな……!


「なぁ、シノとやら。ご覧の通りだ。本名を聞かないと、私の側近は納得しないらしい」


「ほ、本名か……」


 なぜか顔を引き攣らせ、しぶりだしたシノ。


「どうしたのです。自分のお名前が言えないのですか? それとも、自分でも忘れましたか?」


「う、うるさいっ。名乗ればいいんでしょ!

 私の名は、ジャングリッグ……」


「ジャングリッグ? なぜ、そんな自信なさげなんだ」


 俺が問いただすなり、シノはキッと睨みをきかせてきた。


「私の名は! ジャングリッグウィンペイスト・ウォーリスモ・サンパウスティンダークロスペルディーヌだ!

 これで満足でしょ!?」


「………………なっが……!」


 これはもしや、デュヴェルコードは忘れたのではなく、憶えられなかっただけなのでは……。

 て言うか、なぜ二つ名がシノなんだ?

 ()()も、聞き取れなかった気がするが……。


「シノとやら……。自分の名前は、いつ憶えられたのだ?」


「8歳の時だ……」


「だろうな、8年くらいかかるわ……。その証拠に、私は既にお前の名前を忘れた。

 シノって呼ぶわ」


「ならわたくしは、残念な女で」


「おい! お前たちから名乗らせておいて、その扱いはないでしょ!

 いいから早く、私をボコボコにしなさいよ!」


 りず、ボコボコにされたがるシノ。


「ハァァ……。どうしてもか?」


「どうしてもよ! 抵抗も反撃もしない、約束するから! 私の名に誓うから!」


「他のものに誓ってくれ。お前の名前、忘れたし。

 しかしだな……。無抵抗な相手を一方的に攻撃するのは、いささか気が引けるのだが。

 どうも、調子狂うなぁ……!」


「なんと……! お前は本当に魔王なの?

 私の持つ、無抵抗な相手を傷つけたくない騎士道精神と、うり二つね」


 嘘つけ……! 出会って早々、無抵抗な俺に弓矢を撃ち込んできたのは誰だよ。


「どうやら、本当にボコボコにされるまで、帰る気はなさそうだな。未だにお辞儀しているし……。

 デュヴェルコードよ。この残念な女を帰らせる、いい方法はない……か……」


 助言を求めようと、俺はデュヴェルコードに視線を移す。

 すると、キラキラと目を輝かせたデュヴェルコードが、ゆっくりと右肩を回していた。



 ――この子、やる気だ……!



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