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33話 正体妄想4





 俺たち3名は昼食を取るため、昨夜に続き厨房エリアへと足を運んでいた。


「スゥーよ、顔を出せ! 私だ、ロースだ!」


 俺はブリアーヌを背負ったまま、厨房の中に向け大声をとどろかせる。


しばし待たれよ、ロース様!」


 俺の呼び掛けに応えるように、厨房内から同じ声量で返してきたスゥー。


「ブヒュー。待たせましたな、ロース様! 本日もお元気そうで、何より!」


 しばらくすると、鼻息の荒いスゥーが、エプロンで両手を拭きながら厨房から出てきた。


「お前の元気と暑苦しさには負けるがな。しかも昨夜と変わらず、お前は『裸エプロン』か」


「ブヒュー、これが俺の調理スタイルですから! 料理長として、ゆずれないこだわり!」


「分かった分かった、好きなルーティーンで調理してくれ」


 胸を張り鼻から蒸気を放出するスゥーに、俺は温度差のある冷め切った視線を送る。


「それはそうとロース様、本日は何をしに来られた?」


「私がここへ足を運ぶ目的はひとつ、食事だ。昨日の絶品の数々が、忘れられんのだよ」


「ブヒュー。お褒めの言葉、嬉しい限り! このデカッぱなも、鼻が高いですなぁ!」


「そこでだ、今から私とデュヴェルコード、そしてブリアーヌの3名に、食事を用意できるか?」


「3人前、美味ければ何でも宜しいですか!?」


「何でもっ……構わんが、ある程度は節度を持ってな」


 俺は昨夜テーブルに並んだ、おちょくりメニューのラインナップを思い出し、言葉を詰まらせた。

 どれも夢中になれる美味さだったから許せたものの、本来だったらクレーム案件のメニューだったな……!


「へいっ、大将! 今日もご馳走を期待していますからね! 思わずちゃぶ台返ししちゃう程、美味しい料理を待ってます!」


 俺に背負われた動かないブリアーヌのスカートを、まるでちゃぶ台返しを演出するかのように両手でヒラヒラとめくり始めたデュヴェルコード。

 まだロリッ子同士のたわむれだからセーフだが、この子以外がやると絵面えずら的にアウトだな……!


「デュヴェルコードよ、ちゃぶ台は不味い時にひっくり返すものだぞ。料理はスゥーに任せるとして、私たちは配膳はいぜんされるまで大人しく食堂で待っていよう」


「はいっ、では昨日のテーブルに移動致しましょう。スゥーさん、お料理は()()()で、迅速に出してください」


「ブヒュー、承知っ!!」


 スゥーは豊満な巨体でキレ良く振り返り、やる気に満ちた足取りで厨房へと戻って行った。

 そんな離れていく背中を見送ったのち、俺たちも食堂へと移動を開始した。


「ロース様、昨日と同じテーブルで宜しいですか?」


「あぁ、ど真ん中の一等地だな。先にブリアーヌを下ろすぞ」


 俺はど真ん中のテーブルに歩み寄るなり、無気力なブリアーヌをソッと椅子の上に座らせた。


 その時。



「――お待ちどう!」


 料理の盛られたまな板を両手いっぱいに持ったスゥーが、厨房から勢いよく飛び出してきた。


「はやっ! もはや調理時間なしだな。作り置きの飯か?」


「ブヒュー。元々は厨房スタッフの下っ共に食わせる予定だった、まかない飯です。それを盛りつけしたのです」


まかない? そんな料理を魔王である私に出すのか?」


「賄いと言いましても、この城のエリアボス共でさえ、滅多に口にする事がない珍味なのですが。俺の下っ共は、それくらい良い物を食って厨房に立ってます!」


「ち、ちなみに、その料理は何だ?」


「『ヘビードラゴンの骨付きカルビ。塩、タレ、スパイスソルトの3種焼き、まな板に添えて』です!」


「よし、カルビ。配膳しろ」


 料理名だけで美味いと直感した俺は、スゥーに手招きしながら即答した。

 気づけば俺の口元から、よだれが滲み出ていた。これこそ飯テロだ……!


「さぁ! たんと召し上がれ! 存分にほどこされろ!」


 スゥーは両手に持った肉料理を、ド派手に俺たちのテーブルに置いた。


 テーブルに置かれるなり、まな板の上で軽くバウンドしたカルビ肉たち。

 ブリンッとした厚みのある肉が踊ると、湯気と香りが一気に俺の鼻まで立ち込めてきた。


「うっ……! なんて肉のこうばしい香りだ」


「まったくですね! しかもこんな良い物が、下っ端のまかない? なんたる甘やかし! けしからん、けしからん贅沢ですね! 代わりにわたくしたちが、美味しく食べて差し上げましょう!」


 しかり文句を口にしながらも、ウキウキな様子でまな板の上から肉を取り上げるデュヴェルコード。

 今回の料理は、唯一この子だけおちょくられた要素が入っているが、何も知らず呑気のんきなものだ……!


「では頂くとしよう。デュヴェルコード、ブリアーヌ。お前たちも遠慮せず食事を楽しんでくれ」


 俺は骨部を鷲掴わしづかみにし、脂の乗ったカルビ肉に歯を立て、豪快に噛みちぎった。


「やはりっ……美味い! 何なのだ、お前の作る飯は! 究極に美味いぞ!」


 俺は口の中で咀嚼そしゃくを続けながら、肉を両手に持ち替え次々と肉をむさぼっていく。


「ブヒュー。相変わらず、気持ちがいい食いっぷりですな、ロース様! さぁ、もっともっとご堪能たんのうを!」


「分かってる! 美味いから少し黙れ!」


「ブヒュー……! やはり食事中になると、ロース様は血気(さか)んになりますね。そんなロース様の豪快な食べっぷりに、厨房の下っ端共も見にきましたよ」


 スゥーは厨房を振り返り、俺の視線を誘導するように指を差した。


「んっ? 私は見せもんじゃ……!」


 指示されるまま厨房の方に視線を向けてみると、出入り口のわくを取り囲むように、ゴブリンやコボルトたち下っ端が顔をのぞかせていた。

 ヒソヒソと何かを呟き合いながら、まるで泥棒を見つめるような目つきで……。


「ロース様の食いっぷりに、皆が見惚みほれていますよ」


「いやっ……あの視線は違うだろ」


 どう見てもあの下っ端集団、『他人ひとまかないを食いやがった』とでも言いたげな、泥棒に向ける目つきなんだが……!


「何ですか下っ端の雑魚さんたち! まるで『自分たちの賄いを奪いやがって』と言わんばかりの視線を、わたくしたちに向けてきて! 食事中でも容赦ようしゃなく瞬殺しますよ! シッシッ、退散退散! 仕事に戻りなさい!」


 俺が思っていた事を、包み隠さず全部ぶちけてくれた、やからもどきのロリエルフ。

 普段はこの身勝手でお構いなしな言動に振り回されているが、今回だけは……。



「――デュヴェルコードよ、グッジョブ」




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