表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
283/304

32話 食欲旺盛5





 俺たち3名の前に並べられた、料理長ご自慢の料理。


「なんだよ、このラインナップは……!」


 俺の隣でぐったりと座り込むハーフハーピィのブリアーヌに出された料理は、『鳥尽くし』の品々。

 何となく違和感を感じているデュヴェルコードに出されたのは、全て名前に『ロリ』のつく料理。

 そして俺に出されたジビエ料理は、全て『ロース肉』。


 見るからにどれもご馳走だが、俺はこの料理たちに皮肉しか感じない……!


「スゥーよ、食べる前に確認だ。お前、この料理はわざとか?」


 俺は自信たっぷりに料理を並べた料理長に、疑心の目を向けながら質問した。


「ブヒュー、当然! ()()()美味い飯を作りました!」


「そうではない、味よりチョイスだ。スゥーよ、お前にメニュー決めは一任したが、軽くバカにしているだろ。私に提供した肉の部位は、ロースばかりだし、デュヴェルコードは……」


「えっ! わたくしの料理にも関連性が? 『ローリエリーフ風味の肉煮込み』に、『ポイズントードのローリング焼き』、『ロリドラゴンのテール炙り』……違和感はあれど、関連性?」


 デュヴェルコードは不思議そうな顔をして、ジロジロと自分の前に並べられた料理たちを、順に見回していく。


「いやっ、何でもない。お前の料理は普通かもな……」


 俺はその場(しの)ぎの嘘をつき、デュヴェルコードに真実を隠した。

 とても全ての料理に『ロリ』がついているなど、この子に伝えられない。きっと厨房エリアが、戦場と化してしまう……!


「そ、それにだな。私のロースいじりはまだしも、ブリアーヌに関しては共食いに近いだろ。ハーフハーピィ相手に、鳥()くしの料理を出すか普通?」


 俺はブリアーヌの前に並ぶ料理を見つめたのち、スゥーに軽蔑けいべつの目を向けた。


「わ、私はこの際……食べられるのなら何だって構いません。鳥同士とか気にするほど、空腹と意識に余裕がなくて……」


 ブリアーヌは待ち切れない様子で、目の前にあるグリルチキンの皿を、弱々しい手つきで自身の方へ引き寄せた。


「そ、そうか、気にならないのなら構わないが。あとは最後に、この大皿と称したまな板に盛られた料理だ。これが1番(ひど)い」


「と、おっしゃいますと? 御三方に出す大皿料理にピッタリな『不死鳥フェニックスの丸ごとローストチキン、まな板の上に添えて』だと思いますが、ブヒュー」


「その小洒落こじゃれた料理名だよ。これは完全にイジりだよな? おちょくりメニューだよな?

 ローストは私の名前から、チキンはブリアーヌの種族から、そしてデュヴェルコードは……」


 俺は内容を全て話し切る直前で、チラッとデュヴェルコードに視線を配り、言葉を詰まらせた。


「いかがなさいましたか、ロース様。わたくしだけこの大皿に関連性はありませんよ。それとも、何か深い意味でも隠れているのですか?」


「いやっ……確かにこの大皿にも、お前の関連性だけないな」


 俺はまたも騒動を回避するため、デュヴェルコードに真実を伝えなかった。


 デュヴェルコードだけは、関連性なしという事にしておこう。

 だって俺の直感が正しければ、きっとこの子と料理名の関連性は、『まな板』の部分だから。1番タチの悪いイジり方だ……!


「まぁまぁロース様、料理で相手をおちょくる手法は、スゥーさんにとっていつもの事ですよ。でもそれをくつがえすほど、中身は絶品です。ちょっとしたイジりなど、お気になさらず!」


 自分も料理でおちょくられている事も知らず、呑気のんきに俺をはげましてくるデュヴェルコード。

 この子の浮かれようを見ていると、『知らない方が幸せ』のモデルに思えてくる。それ代表のワンシーンだな……!


「ブヒュー。ロース様、デュヴェルコードさんの言う通りだ。冷めないうちにご賞味ください。至福の味ががれていきます」


「そうだな、細かい事は後にして、頂くとしよう」


「やっと、やっと食べられる……。い、頂きます……!」


 俺の発言を機に、ブリアーヌはマナーも作法もそっちのけで、グリルチキンにかぶり付いた。


「いい食べっぷりだな、礼儀作法など気にせず、今は存分に腹を満たしてくれ、ブリアーヌよ。では私も実食といこう、頂きます」


 俺はナイフとフォークを使い、『魔鹿まじかのロース』を一口サイズにカットし、湧き立つ香りを感じながら肉を頬張ほおばった。


「な、何だよこれ……。何だよ何だよ! 何だよこれ!」


 それはまるで、旨味のダイナマイト。

 咀嚼そしゃくした瞬間、凄まじい美味びみが口いっぱいに広がり、脳天を貫通するほどの強烈な旨みが刺激を与えてきた。


「本当に何なんだよ! 美味すぎる!」


 俺は目の前の肉に、完全にとらわれた。


 感想の語彙ごい力が崩壊するほど美味いロース肉に、俺はひたすらナイフの刃を入れ、フォークで口に運び続ける。


 その単調な動きは、もはや作業と言うより動物的本能。

 俺は余計な事など一切考えず、高速で肉を頬張っていく。まるで頭の中が、『美味い』に支配されたように……!



「――美味いっ、美味すぎる。おちょくりメニューのくせに、満たされていく……!」


 ――パリンッ!


 美味しさの余り、俺は完食した事にも気づかず、夢中で空になった皿をナイフで切っていた……!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ