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32話 食欲旺盛4





 出来立ての料理を巡り、ひと騒動起きた食堂であったが、俺は何とか皆を席へと着かせた。


「料理長、まだですか! 刻一刻と湯気の立ちが悪くなってきてますよ、早く出来立ての料理を堪能たんのうさせてください!」


 あらかじめ並べられていたナイフとフォークを両手に握り、お行儀悪くドンドンとテーブルを叩くデュヴェルコード。

 元はと言えば、この子が余計な真似をしたせいで配膳はいぜんが遅れたのに、なんて開き直りだ……!


「んん〜っ、いい匂いです! ドキドキワクワクする香りですね、ロース様!」


 デュヴェルコードはあごを反り上げ、香りを楽しむように顔をゆっくりと左右に揺らす。


「あぁ、まったくだな。カートの上がご馳走で埋め尽くされている」


「ドキドキワクワク、ハラハラヘラヘラ、もう待ち切れません! スゥーさん、早く配膳はいぜんを! 食欲のお預けらしは、鬼畜きちく所業しょぎょうですよ!」


「そうあせるな、ブヒュー。それにハラハラはまだ許せるとして、ヘラヘラとはなんだ。面白おかしい点などないぞ」


「それだけ高揚感が湧く、いい匂いなのです。ブリだって、ほら! 言葉もないくらいたかぶっているに違いありません!」


 デュヴェルコードは片手に握るナイフで、ぐったりと力なく椅子に座るブリアーヌを指し示す。


「ブヒュー……俺にはスープを取られた鳥に見えるが。ハーフハーピィだけに。まぁ良い、気を取り直して配膳するとしよう」


 スゥーは料理を乗せたカートから皿を取り上げ、まずはブリアーヌの前に皿を置いた。


「お前には、この飯を提供してやる。まずはこの一品、『サーロインバードのグリルチキン』だ」


「サーロイン……バード……」


 紹介された目の前の料理を、覚束おぼつかない目で見つめるブリアーヌ。


「ブヒュー。魔王城で養殖している、間違いのない食材だ。グリルチキンに加え、次は……」


 スゥーは更にカートから2枚の皿を取り出し、最初に出した料理の隣に並べる。


「こちらもサーロインバードだ、右からグリルチキン、フライ、そしてハーブ包みだ」


 スゥーは胸の前で堂々と腕を組み、熱々で美味そうな料理のラインナップを紹介していく。


「と、鳥()くし……。美味しそうだけど、鳥尽くし……」


「心して食せよ、ブヒュー。お次はデュヴェルコードさんへの料理だ」


 チラッとデュヴェルコードに視線を配るなり、スゥーはカートから3枚の皿を取り出し、順にデュヴェルコードの前に置いていった。


「ブヒュー、右から順に、『ローリエリーフ風味の肉煮込み』。『ポイズントードのローリング焼き』、これは毒抜きしたカエル料理だ。そして『ロリドラゴンのテール炙り』、一応珍味に値する」


「んん〜っ、食欲を刺激するインパクトと香り……! しかし何でしょう、どれもご馳走ですが、全ての料理名にどこか違和感が」


 皿に盛られた料理たちをマジマジと見つめながら、に落ちない様子で首をかしげたデュヴェルコード。


「き、気のせいではないか? あまり深く考えず、食事を楽しもうではないか。さて、私には何を出す、スゥーよ」


 俺はデュヴェルコードの持つ違和感の正体に気づき、えて話を進めようと誘導した。

 きっとこの子が違和感の正体を知れば、また騒動を招く事になるからな……!


「お待ちかね、ロース様への飯はこちらだ! 『魔鹿まじかのロース』、『突撃獅子(しし)のロース』。そして希少価値の高い超高級食材、『ニードルバッファロー亜種あしゅのロース』です、ブヒュー! どれも臭みを完璧に取り除いた、ジビエ焼きです!」


 スゥーは料理を紹介しながら、自信満々な態度で俺の前に料理を並べていく。

 ジビエはこの際いいとして、ロース肉のオンパレードの方が引っ掛かるんだが。魔王を料理でおちょくってんのか……?


「そしてこれが最後の品、大皿料理!」


 まるで必殺技でも披露ひろうするように、スゥーはド派手に盛られた料理を両手に持ち。


 ――ドォン!


 テーブルのど真ん中に、荒々しく叩き出した。


「題して、『不死鳥フェニックスの丸ごとローストチキン、まな板の上に添えて』です! まさに御三方に相応しい大皿、まな板上で切り分けながらお召し上がりを!」


 俺は目の前に置かれた様々な料理を見つめ……絶句した。


「んっ? いかがなさいましたか、ロース様。まさか最後の大皿をご覧になり、『不死鳥フェニックスなのに焼死してるじゃないか!』って思いました? ご安心を、都合の良い能力で、食べてもまた復活しますよ。食用として大変喜ばれる、お得な鳥ですよね」


「お、お得な鳥って。確かにそのジレンマにも引っ掛かったが……」


 まさか不死鳥本人も、自分の特別な力がリサイクル食品に利用されるなんて、思ってもいなかっただろうな。お得な鳥なんて、不名誉なあだ名までつけられて……!


「そうではなく、私が真に引っ掛かったのは、目の前に並んだ料理たちの、意味深なバリエーションだ。どれも美味そうだし、バラエティに富んだ食材の数々だ。しかしだな……」


「ブヒュー……。しかし、どうかされましたか?」


 何食わぬ顔で、俺の目を見つめてくる、白々しい肥満シェフ。


「スゥーよ、お前にメニュー決めを一任したのは私だが……」


 俺は無自覚そうなスゥーの顔を見るなり、思わずテーブルに置かれていたナイフを握り締め、ぐにゃりと折り曲げてしまった。



 ――何なんだよ、このおちょくりメニューは……!




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