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4話 猛者復活6





 ――勇者の右腕による場違いな発言に、俺とデュヴェルコードは固まった……。


「無視、された……。頼む! 私をボコボコに……」


「リピートせんでいいわ! こっちは聞こえた上で固まってんだよ!」


 俺は繰り返されかけた場違い発言を、咄嗟に遮った。


「こんなのにレア姉が敗れたと思うと、わたくし恥ずかしくなってきました……」


「私だって恥ずかしいわよ! 騎士が魔族に頭を下げているんだから!」


 勇者の右腕は腰を曲げたまま顔を上げ、デュヴェルコードに怒声を放つ。

 騎士として恥ずべき一礼かもしれないが、人として恥ずべき点は、お願いした内容の方だぞ……!


「なんだか、拍子抜けだ……! なぁ、勇者の右腕とやら。冷やかしなら帰ってくれないか?」


「それは困る! こちらにも事情があるのよ! 人助けだと思って、私をボコボコに!」


「人をボコボコにしながら、人助けの意識が持てるかっ! そもそもお前は敵であり、私は魔王だぞ?

 助ける義理も道理もない間柄あいだがらだと、分かっているのか?」


「だからこうして、頭を下げてんのよ! これでは不十分なのか!?

 もっと角度を落とせば……いや、ブリッジか? 四つんいか? それとも地面をいつくばればいいのか!?」


 …………やめろよ、みっともない。

 この世界の起源は知らないが、こんな子孫の姿を見たら、アダムとイヴ泣くぞ……!


 俺は呆れ気味に、指で眉間をつまんだ。


「どうも調子狂うな……! なぜお前はそこまでして、一方的な敗北を求める。

 同情するつもりはないが、正当な理由があるのなら言ってみろ」


「それが……。先日、街へは無事に戻ったのだが、魔王が目覚めた事を信じてもらえなかった……」


「はっ? なんで」


「きっと、この女が下品で残念なやからだからですよ。あははっ!

 人間たちも、気づき始めたのではないですか!?」


 笑いながら、必要以上にあおるデュヴェルコード。


「ちっ、違うわよ! 本当に魔王が目覚めていたとしたら、単身で乗り込んだ私が無傷で帰って来られるわけがないって……!

 信じて欲しかったら、ハンティングトロフィーとして魔王の首を持ち帰るか、ボコボコにやられて帰って来いって……。そう言われたのよ!」


 悔しげに、そして悲しげに歯を食いしばる勇者の右腕。


 その二択……極端すぎるだろ。

 しかもそこで、はなから敗北側のルートを選ぶところがまた、残念な美女っぷりだ……。


「お前の所属するギルドや教会は、どんな采配さいはいをしているのだ……」


「いや、この指示を出したのは勇者様だ。パーティリーダーの指示には、逆らえないのよ」


「それは……もはや勇者の右腕と言うより、パシリじゃないのか?」


「断じてパシリなんかじゃないわよ! これでもパーティ内では、勇者様に次ぐ実力を持っているもの!

 きっと良き右腕として、信頼されているに違いないわ!」


 さっき、信じてもらえなかったって……。


「ロース様! これぞまさに、『知らない方が幸せ』のお手本ですね!」


「聞こえているわよロリエルフ!」


「その呼び方は止めてください!

 自分の立場を理解できてます? この勘違い女! 燃やしますよ!」


「誰が勘違い女よ、この童顔魔族! 射抜いぬかれたいの!?」


 ヒートアップする女のののしり合いを止めるべく、俺は両者の間に入った。


「おいストップだ! らちが明かないののしり合いはよせ!

 戦う気がないのなら今日はもう帰れ、勇者の右う…………。

 すまん、いちいち勇者の右腕と呼ぶのは面倒だ。名乗ってから帰れ」


「何よ、その頼み方! それに私の高貴な名を忘れたですって!」


「すまんな、覚えていない」


「この女の名前、わたくしも忘れました」


 横からサラッと、俺に便乗してきたデュヴェルコード。

 俺はそもそも知らないだけだが、この子はなぜ忘れている……。


「フンッ……! いいわよ、教えてあげるわよ。その代わり、ボコボコにしてもらうからね!

 私の名は、シノだ……!」


 腰を90度に曲げたまま、勇者の右腕は自らの名を、シノと名乗った。


 しかし……!


「嘘をつくな無礼者!!」



 ――突然、うちの側近が……ブチギレた。



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