30話 救援訪問8
ブリアーヌの額にグリグリと人差し指を押し付けながら、冷たい視線でブリアーヌを見下ろしたレアコード。
「ねぇブリっ子。この城に居たければ、あたくしからひとつ、条件を出すわ……」
その佇まいは正しく、最終エリアボスにして冷酷なドライモンスター。
シリアスに言葉を溜めるレアコードを見ていると、俺まで緊張してくる。
きっとそれをモロに受けているブリアーヌは、気が気ではないだろう……!
「な、なんです……? その条件って」
プルプルと唇を震わせながら、恐る恐る質問するブリアーヌ。
「簡単な条件よ。そして、決して破ってはならない条件かしら」
「私にできる事なら。でも、ちょっと……うぅん、凄く怖いです」
泳ぐ目でレアコードを見つめながら、ブリアーヌはゴクリと唾を飲んだ。
すると。
「ふふっ」
冷徹な下目遣いから一転、レアコードの表情が優しい笑顔へと変わった。
「デュヴェルと、仲良くしなさい」
「えっ?」
予想だにしていなかったのか、ブリアーヌはハッとした様子で、途端に顔を上げた。
「デュヴェルと仲良くなさい。そしてこの子を裏切らない事、困らせない事。それが条件よ」
「う、うん。条件がひとつではなくなったけど、仲良くします!」
前向きな条件に安堵したのか、ブリアーヌは片腕の羽根でホッと胸を撫で下ろす。
「さすがデュヴェルコードちゃんのお姉ちゃんだね! 凄く優しかった!」
ブリアーヌは嬉しそうに両腕の羽根を背後に回し、デュヴェルコードへ無邪気な笑顔を向けた。
「何を言っているのかしら? これは和解でもなければ、あんたを認めた訳でもないわ。むしろ脅し。
守れなかった場合、どうなるか分かるわよね?」
レアコードが警告を口にした途端、ブリアーヌの無邪気な笑顔は一瞬にして消え去り、表情が凍りついた。
「ふふっ、訂正するわ。どうなるか分からなくていい、だって約束を守ればいい話だから」
優しい笑顔とは裏腹に、次から次へと脅しをかけていくレアコード。
こんな裏のある笑顔で脅迫されたら、誰だって固まって絶句するわ。
「………………は、はい」
「よろしい、良い返事ね」
どこがだ。思いっきり容認を強要された、信念なき返事だろ。
きっと少しでも歯向かうと、生きてこの城を出られないと悟ったのだろうな。
「レアコードよ、あまり脅迫してやるな。そもそもこれは、勇者や敵などにかけるタイプのプレッシャーだろ、普通……」
「あら、それは失礼しましたわ、ロース様。あたくしは単に、この城や大切な妹を守りたかっただけですわ」
レアコードはブリアーヌの頭を撫でながら、俺に軽い笑顔を向けてきた。
先ほどの脅しを見た直後だと、この美しい笑顔が胡散臭く思えてくる。
「ウヒッ、ヒヒヒ。何だか勝手に話が纏まってるみたいだけど、ウチは反対でーす。帰れ帰れぇー」
「私も反対派ですかね。主もおっしゃっています。禁断の恋から生まれしハーフハーピィよ、汝は我々に災いを齎す、危険な存在。
種族の理を越えた存在は、いつでも争いの火種となると、相場は決まっています」
せっかく話が終わりかけたにも関わらず、レアコードの背後から各々の意見を主張してきた、マッドドクトールとキヨラカ。
そんなふたりの反論に、レアコードが真顔で振り返る。
「何よ、あんたたち。藪医者と邪教徒の分際で、あたくしの意に反する気なの? 気は確か?」
紫色の両目を鋭く光らせ、今度は身内に脅しをかけ始めたレアコード。
もはや俺より、魔王の貫禄を備えているんだが……!
「レア姉。あの不届き者ふたりを捩じ伏せるなら、わたくしもお付き合い致します。
そこのパカな御二方。ブリに対するわたくしの好意に、泥を塗るつもりですか? まとめてボコボコにして差し上げましょうか?」
レアコードの隣にゆっくりと移動し、今にも魔法を放とうとする様子で、前方へと手を翳したデュヴェルコード。
こちらもオッドアイの片目を紫色に光らせ、姉妹揃って反対派のふたりを睨みつける。
「ヒヒヒッ、何このヤクザ姉妹。側近ちゃんたち怖ーい!」
「まさか、もう災いが降りかかるとは。やはりハーフは、争いの火種。しかし捉え方によっては、デュヴェルコードさんにイジメられる絶好のチャンス。災い転じて福となすとは、この事ですね、ロース様!」
まるでピンチがチャンスに変わる喜びを表すように、ギラギラの視線を俺に向けてきたキヨラカ。
何で急にドMキャラになってんだ、このポンコツ修道士……!
「キヨラカよ、私に同意を求めてくるな、気持ち悪い思考だな。しかも私は賛成派だろ、同じ派閥のヤツに同意を求めろよ」
「ロース様のおっしゃる通りです。変わり者同士、反対派のふたりで下劣な特殊フェチを共有してください。ブリに悪い影響が及びますので、シッシッ」
俺の後に続き、反対派を拒絶するように反論したデュヴェルコード。
ここに居る全員が変わり者だろ、ロリエルフ。自分よりハイレベルな変わり者を前にしても、お前がマトモになった訳ではないぞ……!
「あんたたち、話を脱線させんじゃないわよ。脱線するとしても、もっとマシな脱線は出来ないのかしら。不快な内容ね、下衆魔族共」
レアコードは淫らな雰囲気を断ち切るように。
――ゴンッ!
背筋をそのままに、力強く片足で地面を蹴った。
その『あんたたち』の中に、まさか俺まで入ってないよな? 俺は勝手に巻き込まれただけだぞ……。
「レ、レア姉っ。あまり怒気を剥き出すと、またブリが怖がってしまっ…………ブ、ブリ!?」
デュヴェルコードはブリアーヌに振り返るなり、仰天した様子で叫声を上げた。
その叫声を機に、俺も思わずブリアーヌに視線を向ける。
「こ、この子。立ったまま気絶してないか……?」
様子を確認してみると、ブリアーヌは魂を失った抜け殻のように、気力のない瞳を開いたまま立ち尽くしていた。
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