4話 猛者復活5
レアコードの復活が完了した直後に、聞き覚えのある放送が城内に流れた。
「ロース様! もう来てしまいました!」
「そのようだな。今はレアコードを復活させられただけ、吉だったと思うしかない。
あと……あの緊張感のない放送は、変えないか……? 内容的に、決して定期連絡ではないぞ」
「それは後ほどに! まずは正門に急ぎましょう!」
俺を急かすように、その場で駆け足を見せるデュヴェルコード。
「分かった。作戦すら立てていない状況だが、正門へ向かうとしよう。
ところで、レアコードよ。先ほどの返答を聞いておこう。すぐにでも戦えそうか?」
「当然です。しかし今は、装備を所持しておりません。取りに行ってきても構わないかしら?」
レアコードは無防備をアピールするように、大きく手を広げた。
「あぁ、許可しよう。レアコードは装備を整え次第、至急正門へ向かうように。
私とデュヴェルコードは、先に正門へ急行するぞ」
「「かしこまりました」」
姉妹ふたりの返事を機に、俺たちは各行動に移った。
――そして、俺は数秒後に……。
「おぅえええぇぇぇ……!」
3日前にも味わったあの気持ち悪さに、再び見舞われた……!
「ロース様、大丈夫ですか!?」
容態を確認し、俺の背中を優しくさするデュヴェルコード。
「デュヴェルコードよ……! 頼むから、いきなり飛びついて『テレポート』は、止めてくれ」
「申し訳ございません! でも、不幸中の幸いでした。
移動直後に、いきなりドンパチ……なんて事態を避けるため、テレポート先をあえて城内入口にしておいたのです」
「それが、なんの幸いに繋がる?」
「敵さんに、無様なお姿を見られずに済みました! 災い転じて福となす、ですね!」
デュヴェルコードは励ますように、可愛らしく両手でガッツポーズをとった。
前向きなのはいいが、災いはお前だ……!
「まぁ良い……。それより、勇者はあの大扉の向こうだな……。行くぞ、対面だ」
「はい! レア姉が来るまで、ふたりで持ち堪えましょう!」
俺たちふたりは、外の正門に通じる大扉へと歩き出した。
「姉と言えば……。同じダークエルフの姉妹でも、レアコードはオッドアイではないのだな」
「わたくしのオッドアイは、希少な生まれつきです。そしてこの瞳は、わたくしに優れた魔法の才を授けてくれました。
闇魔法に加え、相反する聖魔法までも、高度に操る事ができるのです。魔族では珍しい事と、聞き及んでおります」
正面を向いたまま、自らの魔法に長けたカラクリを説明するデュヴェルコード。
なるほど……。だから『グラトニーフレイム』の時は紫色の瞳が光り、『リザレクション』では黄色の瞳が光ったのか……!
「凄いではないか。言葉通り、生まれ持った才能だな。
そのオッドアイを授かった事に、感謝と誇りを持たねばな」
俺は純粋にその才能が素晴らしいと思い、ありのままを伝えた。
しかし……。
褒めた途端、隣を歩いていたデュヴェルコードは俯き、足を止めた。
「そうですね……。でも、この瞳もいい事ばかりではありませんよ……」
「え…………?」
何やら、意味深な事を呟かれた。
過去に辛い経験でもしたのだろうか……。
「それより今は、戦いに集中しましょう! きっと、厳しい死闘になるはずです!」
苦悩を振り払うように、デュヴェルコードは顔を上げ歩き出す。
俺は声をかけられず、無言のままデュヴェルコードに合わせ隣を歩いた……。
「いよいよです、ロース様」
「あぁ、正直まともに戦えるかは分からないが、やれるだけの事をしよう!」
大扉の前に着いた俺たちは、互いに息を合わせるように、勢いよく大扉を押し開いた。
――バンッ……!
大扉は派手な音を立てながら全開し、正門周辺の景色を露わにした。
そして、正門を見ると……!
「あれは……勇者の右腕。やはり来たか。
だが、なぜひとりなんだ? 勇者や他のパーティメンバーは隠れているのか?」
正門には、勇者の右腕が単身で待ち構えていた。
「お気をつけください。陽動の一環かもしれません」
「そうだな。とりあえず、警戒しながら近寄ろう。どの道、私は近距離タイプだからな……」
俺たちは足並みを揃え、正門へと歩いた。
「3日ぶりね魔王! わざわざ正門パッカーなんて、気が利くじゃないの!」
相変わらず、残念な美女っぷりを醸し出す勇者の右腕。
そう言えば、正門を閉めるの忘れていた……!
「せ、正門を開けていたのは、敢えてだ。余裕の表れと言うやつだよ……!
それより、お前の方こそ余裕を見せているのか? 勇者を連れて来ると宣言した割に、姿が見えないではないか。
まさか余裕ではなく、怖気づいたのか?」
俺は敵の目論見を探るべく、牽制を入れてみる。
「フンッ……!」
俺の質問に答える事なく、軽く鼻で笑い返してきた勇者の右腕。
そよぐ風に白いローブを靡かせ、堂々たる佇まいで俺を睨んでくる。
だが、突然……!
「魔王っ! 屈辱ではあるが、折り入って頼みがある!」
勇者の右腕は腰を90度に曲げ、俺たちふたりに向け頭を下げてきた。
「はっ!? な、なんだ急に……!」
「頼む! 私を…………ボコボコにしてくれないか!?」
勇者の右腕による、予想だにしなかったアブノーマルな申し出に。
「「…………………………」」
俺とデュヴェルコードは、言葉を失った。